第18章 蛹のはばたき✔
「どうにも幼子のようだな…」
「おさ…何?」
「いや」
彼女相手となると、柱としての威厳も煉獄家としての気格も消えてしまう。
そんな子供のような独占欲に、つい溜息が漏れる。
溜息を零すものの、緩んだ口元は締まることなく。
「そんな自分も存外悪くないと、思ったまでだ」
「うん。何が?」
可笑しくも愉快そうに、笑った。
「後藤君! 清少年!」
「あ。炎柱様っ」
「待たせてしまっただろうか!」
「いや、特に問題は…って。それ、蛍ちゃん、ですか?」
「う、うん」
桂川から然程距離もない場所で、待機していた背丈に凹凸のある二人。
杏寿郎に背負われ羽織を頭から被った蛍は、ぱっと見ただけでは誰かもよくわからない。
夜空の下で後藤が目を瞬けば、蛍は決まりが悪そうに曖昧に笑った。
「蛍は今日一日、日光に耐え抜いてくれたからな。帰りは俺が背負うと言ったまでだ」
「じゃあ具合が悪くなった訳じゃないんスね?」
「ああ!」
「ならよかった」
ほっと胸を撫で下ろす後藤の姿に、照れ臭さが混じるもののほわりと蛍の胸の内も温かくなる。
「ありがとう、後藤さん」
ぽそりと告げた声は、どうやら彼には届いていたようだ。
目元だけ見える覆面の下で笑うと、なんでもないことのように後藤は頸を横に振った。
「礼を言うのはこっちだよ。お陰様で久々に羽休めができた」
「それなら、お礼は私より杏寿郎にかな。観光に行こうって誘ってくれたのは杏寿郎だから」
「うむ。だがそれを言うなら、観光案内をしてくれたのは全て清少年だ。礼を言うならば彼にだろう!」
「え」
「あ。確かに」
「炎柱様の言う通りだな」
「えっ」
順々に回った視線が、最後は一人の少年に集中する。
いきなり注目を浴びたことか、炎柱に褒められたことか。
かかか、と顔を赤く染める清の姿には、向く目も優しくなるというものだ。