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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第5章 柱《弐》✔



(そうだ、私、確か風鈴の爆発で)


 あの後どうなったのだろうか。
 慌てて起き上がろうとすれば、思うように体が動かない。


「っ…?(あれ…体、が…重い…)」


 ふらつく感覚も、何故だかはっきりしない。


「無闇に動くなよ。全身麻酔がまだ効いてるはずだ。鬼の体じゃ、人間程効果はないらしいが」

「?」

「なんせお前の体、ほぼ木っ端微塵に吹っ飛んだんだぞ。派手にな」

「…ぇ…?」


 どうにか起き上がろうと床に手を付けば、がくんと体が落ちる。


「っ!」

「っと。危ねぇ」


 天元の腕に凭れるように支えられて、初めて蛍は自分の体の状態を悟った。
 体を支えられなかったのは力が入らなかったからではない。
 その支える手がなかったからだ。

 天元の包帯など比較にならない。
 己の全身に巻かれたそれは、どれも赤黒く染まっている。
 しかしその包帯も胸と腹部のみ。


「──!」


 そこから先は、全て失くなっていた。
 手足も腕も、そして下半身も無い。


(なんで? 私の体は? なんでないの?)


 しのぶに四肢を切断された時とは違う。
 下半身から丸ごとなくなっている姿は、現実離れし過ぎていて理解が追い付かない。
 それでもフラッシュバックのように脳裏に走ったのは、あの山中での出来事だった。

 天元の腰から落ちた風鈴が、地面にぶつかり爆発した。
 その瞬間、驚いた天元の手が蛍の襟首を緩めた。

 そして──


「ぁ…あ…ッ」


 言葉にならない。
 内蔵が半分も欠けた状態で、それでも生きている奇妙な感覚にぞっとした。


「わ、わた…し…ッ」

「おい、しっかりしろ。それくらいでお前は死なねぇよッ」

「私…の、から、だ…ッ」

「チッ! 本当に弱っちい鬼だなッ」


 カチカチと牙を震わせて、体も小刻みに震え出す。
 今にも卒倒してしまいそうな蒼白した蛍の顔に、天元は舌を打った。
 かと思えば、いとも簡単に支えた体を持ち上げる。


「見るな。忘れろ。すぐに戻る。お前は鬼だろーが」

「ッ…」


 視界を覆ったのは大きな掌だった。
 真っ暗な視界の中で抱き寄せられた背中が、分厚い胸に触れる。
 しかし圧迫させるような強さはない。

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