第5章 柱《弐》✔
「は…!」
ひゅ、と息が上がる。
見開いた両目は知らない部屋の天井を映し出した。
「はっ…は…」
小刻みに揺れる呼吸に、体を伝う汗。
意識を混濁させながらも見上げる蛍の視界に、映り込んだ顔がいた。
「地味なのか派手なのかわかんねぇ起床っぷりだな」
「っ…?」
それは蛍の知らない顔だった。
辛うじて肩にかかる、男にしては長い輝く銀色の髪。
派手な髪色に負けることはない、睫毛の長い切れ目の色男。
見開く蛍の目を見返したまま男の口元がニィと笑う。
(…あ)
その顔には何処か見覚えがあった。
「……」
「おい大丈夫か? すっとぼけた顔してるけどよ。体だけじゃなく脳味噌までやられたか」
「ぇ…ぁ…なた、誰…」
「…その歳でボケは早ぇぞ、鬼の小娘」
"鬼の小娘"
聞き覚えのある呼び名に、蛍は更に目を見開いた。
よく見ればその派手な銀髪も憶えがある。
ぴしりといつもは綺麗にまとめて尚且つ、額当てをしていたものだから気付かなかった。
顔に施していた派手な化粧も、着飾っていた宝石の類いもない。
シンプルな着流し一枚、その姿も様になるのは驚く程顔が良い所為か。
「…き…」
「ん?」
「筋肉、忍者…?」
「よォし目覚めの一発いっとくか」
恐る恐る問えば、にっこり笑って拳を握ってくる。
着物の袖から覗く逞しい腕は、やはりあの忍者だった。
その腕に真新しい包帯が巻かれているのを見て、蛍はようやく事態を察した。
目の前にいる男と、意識を落とす直前まで戦り合っていたはずだ。