第18章 蛹のはばたき✔
最初は何を告げられたのかわからなかった。
言葉は理解していたのに、頭が理解に追い付かなかった。
(今、なんて)
否定されるのだと思っていた。
甘いだけの考えは通用しないと言われるのだと思っていた。
「できるなら隣で見ていたいと願う。生憎俺は、君を独りにさせる気はない」
言葉にならず困惑の表情で見返す蛍に、心情を汲み取った杏寿郎の眉が下がる。
「言っただろう。俺は鬼でも人でもなく、蛍だから慕ったのだと。…君と未来を作ることを望んだ日に、よもや切り捨てても構わないと告げられるとはな…正直、驚いた」
力なく笑う杏寿郎の顔に、痛々しさが混じる。
それを目にした瞬間、蛍は己の胸を掴んで決意を告げた時よりも、胸を鷲掴まれるような思いがした。
ふらつかない為に、後退らない為に、踏ん張っていた力が抜ける。
張り詰めさせていたものが途切れると、目頭へと一気に熱くこみ上げた。
「っ…ぃゃ、だよ」
喉の奥が震える。
鼻の奥がつんと痛んだ。
「杏寿郎と、一緒に、いたい。離れたく、ない。一緒に、生きていたい。未来を、作って、いきたい…っ」
抑え込んでいた心の内側を声にすれば、堰を切ったように止まらなくなった。
目の前が熱くぼやける。
「傍にいられないなんて、嫌、だよ。でも、杏寿郎に、拒否されるのは、もっと、痛い…苦しい。そんなの、辛…、から…っ」
「だから、自ら継子を辞めると?」
「っ…」
ぽたぽたと大粒の雫が、蛍の目元を覆い伝う。
こみ上げる思いと共に溢れる涙は止まらず、両手で何度も顔を拭い上げた。
「弱、…ご、め…っさ、」
「弱くてごめんなさい」と伝えようとした声は、しゃくり上げて言葉にできなかった。
それでも悲痛の声は、杏寿郎に届いていた。
『あの子は強い。自分の立場を、然るべき心で受け入れられるだけの強さがある。でもその強さの内側には、あの子が耐え続け守っている弱さがあるんだよ』
あれは、蛍の処遇を決める柱合会議で皆に告げた耀哉の言葉だった。
今目の前に立つ蛍が、正しくそうだ。
何をも見通す鬼殺隊の主には、その姿が見えていたのだろう。