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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第18章 蛹のはばたき✔



「その心を理解して寄り添いたいと思うのに、俺では想像もつかない道を君はいつも歩いている」

「…人と、鬼、だから…」

「そうだ。…だから、君の歩む先を見たいと思ったのだろうか」


 自問自答するかのように向けた言葉は、以前蛍を天元との初実践稽古に送り出した際に、小芭内や蜜璃にも告げたものだった。
 あの時は、蛍への異性としての好意の自覚などはなかった。
 それでも確かに彩千代蛍という者へ惹かれている自覚はあった。


「力や技術の類ではない、意志の強さが君にはある。俺は君のその心に惹かれた。その眼に映す世界の先を見てみたいと思った」


 小芭内には呆れられ、蜜璃には素敵な愛の形だと喜ばれた。


(嗚呼、そうか)


 あの時は、愛などと場違いにも思える言葉に疑問しか浮かばなかった。
 しかし今は漠然と、蜜璃の笑顔を理解できた気がした。


(俺は、愛おしいと思えていたのか)


 異性に向ける愛や恋という形ではなく。
 ただただ蛍という者の形作る心の在り方に惹かれたのだ。

 そこに鬼と人との垣根はない。


「彩千代蛍」


 凛と張る杏寿郎の声は、蛍を呼んでいた。
 向き合うべき時に告げられる声色に、俯いていた蛍の顔が恐る恐ると上がる。


「俺は鬼殺隊の柱だ。守るべきもの、背負うべきものがある。俺は君のようにはなれない」

「…う、ん」

「だからこそ、その先を俺に見せて欲しい」

「…うん…?」

「己の足場を狭めても尚、己の心の燃やし方を君は知っている。人である一隊士が君と同じことを述べたなら、甘い考えは捨てるべきだと言っただろう。…鬼である君だからこそ、だ。己の魂さえも足場にして立つ君を、止められる安易な言葉など俺は思いつかない」

「……」

「自らの命に換えても他の為に道を切り拓こうとする姿勢を、無碍にする気はない。甘さも厳しさも自覚しているなら尚更だ」


 感情の見えなかった双眸が、灯篭の光を見るかのように柔らかく緩まる。
 淡々と告げていた声が初めて、優しさを帯びた。


「俺に君のその生き様を、見せてくれ」

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