第5章 柱《弐》✔
顔を目の前の着物の帯に埋める
懐かしい七宝柄(しっぽうがら)
姉さんの着物だ
大好きな姉さんの
「姉さん…! ごめんね…っ」
ようやく捕まえたその人を前にして、最初に出たのは喜びの言葉じゃなかった
貴女にしてしまったこと
私がしてしまったこと
謝らないと
「ごめんなさい、姉さん。ごめんなさ…ッ」
貴女を傷付けて
貴女を助けられなくて
貴女を──
『駄目よ、蛍ちゃん。まだこちらへ来ては駄目』
抱き付いていた体を引き離される
ぐっと肩を押し返されて、堪らず顔を上げた
なんで?
私は姉さんと一緒にいたいのに
離れたくない
今度こそ
『だって貴女は』
どろりと、ぬるま湯のような温かい波が体を攫(さら)う
まるで私と姉さんを引き離すかのように
抗おうと波を掻いて、その匂いに気付いた
『私を』
違う
これは全部
『喰べた、鬼でしょう?』
真っ赤な、血だ
「…ッ」
ようやく目の当たりにした姉さんの顔
微笑む顔は、いつもと変わらない
ただひとつ
その顔を丸ごと半分、喰い千切られていること以外は
ぼとぼとと姉さんの体から滴り落ちる真っ赤な血が、うねる大きな波を作り上げていた
生暖かい血
憶えがある
これは、姉さんの血を飲んだ時と 同じ だ
私が 姉さんを
喰った 時と
『だカら 貴女は 来テハ ダめ』
剥き出しの歯茎を歪めて尚、笑う
血の滲んだ欠けた眼球で、見つめてくる
『 生キ て 蛍 ちャン 』
陽だまりのような声
優しい笑顔
温かい眼差し
その全てに 責罰されている気がした