第18章 蛹のはばたき✔
「だから鬼を滅することはできないと、そう言うのか」
「…全ての鬼が、そうだとは言わないよ。華響は頸を跳ねられても可笑しくなかった。止めるつもりも、なかった。でも、鬼の命を零か十かの答えだけにしたくない」
生かすべきか、殺すべきか。
鬼殺隊での蛍自身の在り方がそうだった。
周りの目は、常に生か死で蛍を見ていた。
だからこそ、それ以外の答えを模索したのだ。
「甘いことを言っていると思う。こんな考えで、炎柱の継子を名乗る資格も、ないと思う。…それでも私は、私だから生まれたこの感情を、潰したくない」
初めて、血を交えて人喰い鬼と対面した。
人にとって鬼が化け物となる理由も、十分過ぎる程理解した。
だからこそ己の存在意義を自問自答したのだ。
人の世に鬼が不要ならば、自分はなんの為に生きているのか。
「鬼の脅威から人を守りたい。それと同じに、鬼自身が抱える鬼舞辻無惨の呪いからも、鬼を守りたい」
「……」
「一度でいい。また鬼と対面した時は、私に一度話をさせて欲しい。華響みたいに、通じない相手なら諦める。人喰いに染まってしまった鬼は、滅さなきゃいけないと思うから……ただ、私が杏寿郎達に貰った"機会"と同じに、他の鬼にも、その機会を託してみたい」
「……」
「一度だけで、いい、から」
じっと無言で貫いてくる杏寿郎の双眸は、何を考えているのか。答えが見えないから不安は募る。
沈黙が突き刺さるように痛い。
「…今回のようなことが起きたら?」
長くも感じる重い沈黙を破ったのは、静かな問いだった。
「今回、君はあの鬼に喰われかけた。後藤君か俺の誰か一人でも欠けていたら、此処に君はいなかっただろう。相手は人知を超えた力を持つ鬼だ。それに手を差し出すことは、それ相応の危険も伴う。それでも声をかけると?」
杏寿郎の問いは至極当然のものだった。
その危険性を見過ごしていた訳ではない。
考える必要などなかった。
「私も、その異端の一つだから。自分の行動は自分で、責任を持つ」
覚悟ならしている。
だからこそ恐怖を持ちながらも思いを、意志を、口にした。