第18章 蛹のはばたき✔
「ありがとう。杏寿郎」
「む?」
「少年と、後藤さんも」
「なんやねん急に…」
「今日一日、凄く楽しかったから」
「蛍ちゃんがそう思えたんなら、何よりだ」
緩やかな笑みを浮かべる蛍に、清は気恥ずかしそうに口を尖らせ、後藤の目元は優しく細まる。
半日という短い時間であったが、それでも人並みのように京の都に染まることができた。
人間にとっては些細なことでも、蛍にとっては昼間人々と共に時間を重ねることは特別な意味を持つ。
「何を言う」
そんな蛍を中心に和む空気を断ったのは、先程と一変した炎柱だった。
「本番はこれからだぞ」
「え?」
「本番?」
「これからって…」
唐突な杏寿郎の言葉に、誰もが頸を傾げる。
杏寿郎だけが一人、口元に微かな笑みを称えると清を見た。
「だろう?」
「…あっ」
地元の民である少年が、やがて何かを悟ったように目を丸くする。
憧れの炎柱と過ごす時間の中で、つい忘れていた。
今日という日が、ただの一日ではないことを。