第18章 蛹のはばたき✔
南座の劇場で呑まれる程に感じた高揚感は未だ残っている。
その鮮やかさを思い出すように、蛍は杏寿郎を今一度見つめた。
「流麗な動作とか、見得の型とか。なんだか見覚えあるなぁと思ってたら杏寿郎だった」
「炎柱様?」
「うん。杏寿郎と何度も手合わせをしてたから、なんとなく感じたことだけど…歌舞伎に似た型があったような気がして」
「成程。よく見ているな」
茶を啜った湯呑みをことりと机に置くと、杏寿郎は心底満足そうに声を上げた。
「独自で鍛えた俺の型に流派はない。だからこそ取り入れられるものは全て試してきた。歌舞伎の舞も、その一つだ」
「あ。やっぱり? 時透くんも言ってたから。杏寿郎の組手は型が綺麗だって」
「時透が? それは嬉しい事実だな」
「炎柱だからかな。なんか、こう、派手と言うか魅せるような型と言うか…つい見入ってしまう感じ。天元も言ってた。煉獄の癖にって」
「宇髄もか。褒められているのか些かわかり兼ねるが、それも嬉しいことだ!」
「あー…わからなくもないかもなぁ…稲荷山での炎柱様の殺陣、凄かったし」
「よもや後藤君までもか! ありがとう!!」
「そない凄い型ならオレも見たかった…」
「型くらい見せるに容易い。観光の礼だ、少年の為ならいつでも時間を作ろう!」
「ほんまですか!?」
杏寿郎の周りで賑わいを成す。
彼らの姿を見つめながら、蛍は変わらず両手で頬杖をついたまま頬を緩ませた。
(本当に観光を満喫してしまったなぁ)
最初こそどうなることかと思っていたが、初めて目にするもの、肌に感じるものばかりで、気付けば瞬く間に時間は過ぎ去っていた。
定食屋の外から差し込む陽の光は、鮮やかな橙色から夕闇に染まりつつある。
夜はすぐそこだ。