第18章 蛹のはばたき✔
「うむ。故に継子になりたいと頼み込んできた者達には、俺がこなしてきた鍛錬より比較的軽いものを命じたつもりだったんだが…」
「…どれだけ自分に厳しい鍛錬やってたの…」
己に厳しい男だとはわかっていたが、それ程までに過酷な鍛錬を課していたとは。
「でも私もきつかったよ。最初とか特に。まともに体を鍛えたこともなかったのに、いきなり腹筋や腕立て伏せやその他色々千回もやらされたし」
「蛍は鬼だからな。そこに遠慮はしなかった!」
「遠慮してなかったの? 私されてなかったのっ?」
「ああ!」
「うわ凄い爽やか」
秒で頷く杏寿郎に迷いなど微塵もない。
やはり自分は鬼故の特別過酷訓練を強いられていたのだと蛍が真顔になる中、杏寿郎が「だが」と頸を振る。
「君が正式に俺の継子となってからは、考えを改めた。いくら蛍が鬼であっても限界はある。藤牢での焼身事件のように。だから君を我が屋敷に迎え入れる前に、師としての話を甘露寺に伺いに行った」
「…なんで蜜璃ちゃん?」
鬼殺隊で一番の古株である行冥や、面倒見が良さそうなしのぶ辺りならわかる。
しかし何故過去に一度も継子を取っていない蜜璃に、意見を仰ぎに行ったのか。
「甘露寺は唯一、最後まで俺の継子を全うした人物だ。鬼と人では何もかも違うが、彼女から俺を見た視点を知れば、今後蛍を導く際の参考になるのではと思ってな」
「…そんなに気遣ってくれてたんだね」
己の意志のみで導いてきていたかと思えば、そうではなかった。
杏寿郎なりに色々な可能性を考え気遣ってくれていたのだと蛍が目を丸くすれば、真上から振る声色が和らぐ。
「君が、俺を選んでくれたからだ」
「私、が?」
「他の柱ではなく、過去の炎柱でもなく、今の俺がいいのだと選んでくれただろう」
腕組みをしたままだった杏寿郎の手が、初めて動いた。
太い指先が繊細な手つきで、蛍の頬にほんの微かにだけ触れる。
「だから俺も、俺にでき得る全てで応えたいと思った。君が俺を選んだことを、後悔しないように」