第18章 蛹のはばたき✔
声も表情も穏やかなものだったが、見透かされたような気がした。
もしも身体だけでなく、精神まで見透かされてしまったなら。
己も知らない己の底を見つけられることに一種の危機感のようなものを感じて、すぐに大声と笑顔で礼を告げると足早にカナエの下から去った。
やはり柱たる御人なのだと敬意も抱いたが、見透かされる程に満身創痍だったのかと強く反省もした。
突破口は見つかっても、すぐに改善の道へと進まなかったのはやはり心が問題だった。
体の休息は取るようにしても、眠れない夜は暫く続いた。
そんな自分が情けなくて、不甲斐なくて、だからといってここで挫ける訳にはいかないと奮起した。
必ず炎柱になるのだと己を鼓舞し、ひたすらに上しか見ていなかった視野を他へと向けるように努めた。
鬼殺隊のことも、鬼のことも、煉獄家のことも、そして自分自身のことも。
考えても仕方のないことは考えるなと、余計な雑念を少しずつ削っていった。
時間は要したが、客観的に現状を把握できるようになってようやく精神と肉体の均等は保たれたのだ。
「自分で自分の制御もできないとはな。あの頃の俺は未熟で、恥ずかしい限りだった」
「そ…っ」
「そんなことはない」と言いかけて、蛍は口を閉じた。
現在の杏寿郎が、柱として申し分ない程の広い視野と的確な判断、適応力の速さを持っているのは、その経験があったからこそなのかもしれない。
蛍の知らない、柱になる前の杏寿郎の苦悩。
それに触れると、なんとも言えない感情が湧き上がる。
言葉にするのは難しい。
ただ、手を伸ばして触れていたくなるのだ。
他人に簡単に吐露してこなかったであろう、その心に。
「…うん。合点がいった」
「うん?」
「杏寿郎が鍛錬で厳しい理由」
しかし杏寿郎は、既に過去のことだと笑えている。
そこに部外者の自分が手をかけ更に抉ることが良いことなのかと考えれば、二の足を踏む。
一度閉じた口をゆっくりと開くと、蛍はやんわりとほのかな笑顔を向けた。
触れた先は、昔のささくれではなく現在(いま)のこと。
「杏寿郎本人でさえも潰れそうになるくらいなのに。それじゃあ一般隊士がついてこれない訳だよ」
「む…その自覚はあったんだがな」
「そうなの?」