第18章 蛹のはばたき✔
そうこうしている間にも、手の中のカキ氷は溶けていく。
自分が答えを出すしかないと判断した蛍は再びカキ氷に目を向けると、笑顔で見守る夫婦をちらりと視線の隅に捉え。
「じゃあ…いただき、ます」
専用の匙を、手に取った。
山の形に盛られた氷の上には赤いシロップ。
苺味であろうそれを、じっと食い入るように見つめる。
(ワインと同じ。血だと思えば、きっとできる)
柱会で初めてワインを口にしてから、蛍が唯一味わえるものがそれとなった。
四六時中酒を飲む訳にもいかないので、ワインを嗜(たしな)むのは偶にと決めている。
それでも口が寂しくなれば、天元の用意してくれたボトルを開けた。
『どうだ? 蛍。俺と月見酒でも』
毎度その気配を察して、つき合ってくれたのが杏寿郎だ。
共に縁側で酒を酌み交わしながら、月が照らす夜空の下で色んな話をした。
交わす言葉の数々も大事なものだったが、共に酌を取ることも蛍には特別だった。
誰かと共に同じものを味わい、感じることができる。
人の時は当然だったものが、鬼となって焦がれるようになった。
だからこそその細やかな時間が好きだった。
(あの時と同じ。カキ氷も飲み物みたいなものだし、そのまま流し込めば…)
匙で掬い上げた小さな氷の山。
赤く艶やかに染まったそれを、蛍はゆっくりと自身の口へと運んだ。
後藤や清が固唾を飲む中、一口。甘く香り滴るシロップ漬けの氷を一度で飲み込む。
ごくんと喉を嚥下して、冷たい冷気が気道を下るのを感じた。