第18章 蛹のはばたき✔
告げた言葉も表情も違うのに、何故同じに思うのか。言葉が見つからず蛍の横顔を見上げていれば、不意に手元を指摘されて慌てた。
溶けて形の崩れていくアイスクリンを、再びしゃくりと口に運ぶ。
「…ぅ…うまい」
豪胆な炎柱を真似るように小声で告げる。
暑さとは違う熱で頬を高揚させながら、清は初めて年相応に素朴な感情を吐露したのだった。
「どの氷菓子も大変美味かった! ご馳走様!」
「ええ食べっぷりやったねぇ。あてらこそ、お礼言わんと」
「ほんなら、これもおまけや! 兄はん、食べや」
二十個のアイスクリンを完食した杏寿郎が満足げに礼を言えば、更に満面の笑みで船上店の夫婦は頸を横に振った。
気前良く店主が差し出したのは、アイスクリンとは異なる氷菓子。
美しい砕けた氷を粉雪のように積んだカキ氷だ。
「あんた! これ以上腹を冷やすもんあげてどないするんよ! 別のもんあげんと!」
「あ、ああ。せやったな」
「礼を言うのは俺の方だから、そんなことは気にせず! 美味いものが沢山食べられただけで十分だ」
「ほんに? お兄はんがそう言いはるなら…」
「ほんならこれは、そこの娘はんにどや」
「…え?」
娘と呼ばれて当てはまる人物は、屋形船の上には一人しかいない。
周りの目が向くと同時に、一息遅れて蛍は反応を示した。
「アイスクリン食べてへんやろ?」
「せやねぇ。娘はんもぜひ、体を涼めはって」
「ええ、と…」
悪気のない笑みで店主に差し出されたカキ氷は、既に外気に触れて溶け始めている。
受け取る以外の選択肢が見つからず、蛍は迷いがちにも受け取った。
「ほ、蛍、ちゃん…」
助け舟を出してやりたいが、目の前の夫婦は鬼のことなど知る由もない。
好意で渡されたものを蛍の手から取り上げる理由が思いつかず、後藤は遠慮がちに杏寿郎を見た。
口元に笑みを称えたままじっと蛍を見ているその男もまた、助け船を出そうとはしていない。
何かを訴えるかのように見てくる蛍の視線を受け止めると、にっこりと朗らかに笑う。
まるで蛍の好きにしろと言っているかのようだ。