第18章 蛹のはばたき✔
「折角だ。諸君、好きなものを買うといい!」
「え、本当っスか?」
「そ、そないなこと」
「遠慮するな! 俺が奢ろう!」
「はい! じゃあ私、あのあいすくりんっていうのが気になるんだけど…っ」
「氷菓子の一つだな! しかし蛍は」
「杏寿郎に食べて欲しくて」
「俺に?」
「うん」
期待に満ちた目で大きく頷く蛍の願いを、無碍にする気もない。
清に差し入れされた果物は全て瞬く間に杏寿郎の腹に収まっていたが、それくらいなら朝食にもならない。
きょとんと瞬いた目はすぐににっこりと弧を描き、返事一つで杏寿郎は後藤や清にも同じものを振舞った。
皿に盛られた、丸くドームのような形を模した白い光沢。
匙(さじ)を差し込めば、熱気に当てられて程よく蕩ける。
掬い上げたそれを口に運べば、しゃくりと小気味良い音を立てた。
口内に広がるは、ひんやりとした甘味。
「うまい!!」
太い眉をきりりと上げて通る声で告げる杏寿郎に、蛍の顔も明るくなる。
「どんな感じ?」
「舌触りがよく滑らかで甘い! 幾つでも入ってしまうな!」
一口食べれば、キンと頭を突き抜けるような爽やかな甘味は真夏に丁度良い。
言葉通りに三つ四つと平らげる杏寿郎は、うまいうまいと子供のように連呼する。
「カキ氷とは別物っスからね。お、こっちも美味い」
「後藤さんのそれ、色が違うね」
「味が違うからな。オレのは苺」
「へえ! 美味しそう」
苺味のアイスクリンを食す後藤にも、蛍の楽しげな顔が向く。
しゃくりと己のアイスクリンを口に運びながら、清は片方の眉を顰めてそんな光景を伺った。
「少年のアイスクリンは?」
「へ?」
「何味? それ」
「あ、え…み、みかん」
「蜜柑かぁ。さっぱりして美味しそうだね」
急にその顔が向けられるものだから、驚きで狼狽えてしまう。
それでも気にかかるのは目の前の鬼だ。
何故そうも楽しげにしているのか。
「…楽しいん? こんなん見とって」
「こんなの?」
「自分は食べられへんやろ」
「まぁ、そうだけど」