第18章 蛹のはばたき✔
「ありのままの蛍として、この都を感じて欲しいんだ。いいな?」
「…わかり…う、ん」
遊びの一環だからこそ仕事の肩書きは忘れて欲しい。
杏寿郎の言いたいことはわかる。
蛍が継子としての姿勢を貫くのは、何より杏寿郎の為である。
その杏寿郎に仮面を外すことを望まれ、後藤達も異論がなければこだわり続ける意味はない。
ぎこちなくも頷く蛍に、杏寿郎の笑顔にも明るさが増した。
「うむ! それでは何処へ行こうか、少年」
「は、はいっ」
「そう畏まらなくてもいい。少年が行きたいと思う所に案内してくれれば、それで」
緊張気味に背筋を伸ばす清にも、笑いかける杏寿郎は穏やかだ。
見た目は隊服に炎の羽織姿だが、醸し出す雰囲気は昨夜とは全く違う。
蛍に望んだように、杏寿郎もまた鬼殺隊としての顔は潜めさせているのか。
「え、と…ほな」
うーん、と暫く考えた後、ふと思い立ったように清の足が止まる。
「夏ですし。折角やさかい、涼みに行きまへんか」
「ふむ、それは名案だ! 加藤君も異論ないか?」
「…後藤って呼んでくれたらオレは異論無しです」
「後藤君だな!」
ようやく認められた本名に溜息をつきながら、後藤もまた覆面の下でじんわりと滲む汗を拭った。
涼める場所なら願ったりだ。
しかし暑さは勿論のこと、何もかも見透かしている炎柱の力量を改めて思い知らされた気がして額に汗が浮かぶ。
これ以上は下手につつかないのが一番だろう。
「こっちです!」
「うむ!」
先頭を案内する清が意気込み声を上げる。
快活に応える杏寿郎の足取りは、蛍の歩幅に合わせるようにゆっくりと続いた。