第17章 初任務《弐》
「しかし加藤君!」
「だから後藤っス!」
腕組みをし胸を張るように声を上げていた杏寿郎の声量が、不意に途切れた。
「口を挟んでいるのは君の方だ。継子である蛍の力量は見定めているつもりだ。彼女に何ができて何ができないかくらいわかる。そもそも君に何か迷惑をかけている訳ではあるまい」
「…っ」
貫く程に強い双眸を一切逸らさず、先程の破天荒なまでの持論とは真逆に正論を突き付けてくる。
その頭の切り替えの速さは、煉獄杏寿郎だからこそである。
初めて口籠る後藤に、慌てたのは蛍だった。
「し、師範。何もそこまで言わなくてもい」
「そこで提案なんだが!」
「え?」
「そこまで気になるなら君も一緒にどうだ! 観光を!!」
「……は?」
その不穏な空気を二秒で止めてしまうのも、煉獄杏寿郎だからこそである。
二度目の地声で疑問符と共に目を点にする後藤に、杏寿郎は尚も爽快に笑った。
「蛍の安否が気になるなら近くで見ていればいい! これで解決だな!」
「え、ちょっと、待って下さい」
「せ、せやったらオレも…! オレも一緒したいです!」
「む! 藤の少年もか!」
「オレなら地元の観光案内できるんでっ」
「成程! それは心強い! ぜひ力を貸してくれないか!」
「勿論! そ、それとこれもどうぞ!」
「むむっこれは美味そうな果物だな…!」
「炎柱様の為に用意しました! 昨夜から何も食べておらへんから…っ」
「成程、その心遣いには感謝する。ありがたく頂こう!」
「ほんまですかッ」
「いやちょっと。ちょっと待って下さいってば」
「では早速と出発しよう! 少年! 加藤君!」
「はい!」
「だから待って下さいって! オレは加藤じゃなく後藤ですって何度目!!!」
果物の御膳を片手に、喚く後藤をするりと躱し急かす杏寿郎。
そこに喜び勇んで駆けていく清。
中途半端に伸ばした手で空を切りながら、後藤はがくりと肩を落とした。
「うん。気持ちは察する」
ぽんとその肩に手を乗せた蛍が、苦笑気味に笑う。