第17章 初任務《弐》
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「しっかし今日は一段と暑いな…桃も溶けちまうんじゃねぇのか」
「せやからはよう炎柱様に届けようと…!」
「桃は坊主んとこの家族で食っちまえばいいだろ。炎柱さんは今手が離せないんだって」
「せやけど…」
「む! 其処にいるのは藤の少年か!」
縁側で待機を続ける後藤と、譲らない清。
二人の目の前に渦中の人物が現れたのは、ぎらぎらと真夏の太陽が照り付ける真昼のことだった。
「む! 隠の加藤君もいたか!」
「いや後藤っス」
顔を高揚させる清とは正反対に、冷めた表情で頸を横に振る後藤。
反応は違えど、まさかこの場に炎柱が現れるとは思っておらず二人して驚いた。
「後藤さん! 無事でよかったっ」
「え…蛍、ちゃん?」
何より後藤を驚かせたのは、杏寿郎の後ろからついて来ていた人物だった。
対紫外線用の袴を防具にしているが、本来ならこんな明るい縁側では見ない人物だ。
「な…なんで此処に…っ体調はッ?」
「それならば問題ない! 見ての通りだ!」
「見ての通りって…っ」
「もう大丈夫、完治したから。心配をかけてごめんなさい」
「それなら良いけどよ…てかなんで此処にいるんだ。陽の下に出たら危ないだろっ」
覆面は目元だけしか出していないが、ありありと心配している様がわかる。
そんな後藤にほんの少し頭を下げて謝罪すると、蛍は被った竹笠の下で笑った。
「大丈夫。日光対策はできるから」
「だからってまだ安静にしていた方が…っ」
「これから我らは出掛けるんだ。道を開けてもらえないか」
「え? 出かける? こんな昼間にっ?」
本来ならば鬼は活動時間外。
いつにも増して猛暑日となっている本日ならば尚のこと。
いくら相手が柱であろうとも、一体何を考えているんだと後藤は杏寿郎に目を剥いた。
「出かけるって何処にですかっ? 稲荷山の後処理ならオレがやってますんで問題ないです!」
「うむ! いつも隠の君達の働きぶりには本当に感謝している! だがしかし別件の用事でな!」
「なんですか別件って」
「観光だ!」
「……は?」
声高らかに告げた杏寿郎は、いつもの人を圧するような声。
その圧にも負けず、後藤は低い地声を返した。
目の前の柱は、今何を言ったのかと。