第17章 初任務《弐》
「…鬼の血って、赤いんやな」
「は? なんだ藪から棒に」
陽の差す温かな縁側。
並んで座る後藤の隣で、清は足元を見つめながらぽつりと呟いた。
「赤いって、当たり前のことだろ」
「…オレ初めて見たんよ。あの蛍っちゅう女が初めて見た鬼やったし…」
「ああ、成程」
昨夜、杏寿郎に抱かれ運ばれていた蛍の血に染まった姿が、脳裏に焼き付いたように離れない。
その散々たる姿に驚きもしたが、散々たる故に現実味もなく。
ああ、鬼の血も人と同じ色なんだなと、場違いなことをぼんやりと考えたりもした。
「あの怪我、鬼相手に戦ったから、なんやろ?」
「ああ。親父さんから話を聞かなかったか? 一応、任務の一部始終は報告してるはずだが」
「聞いたけど…あの女も、鬼、やろ? せやのになんで鬼と戦えるんや? 仲間とちゃうんか」
「そりゃあ蛍ちゃんが…」
「…そりゃあ?」
「……」
「なんや」
鬼成らざる鬼である蛍は、人間成らざるもそれに等しい。
そう告げようとして後藤は不意に口を閉ざした。
清が運んでいた桃を、しゃくりと一口齧る。
「そりゃあ、自分で答えを見つけ出すこったな」
「はっ? 今言いかけたやろ! 蛍ちゃんが、なんやねんっ」
「坊主は、鬼のことは全部親父さんから聞いたんだろ」
「え? う、うん」
「人から貰う情報ってのも大事だけどよ。自分の目で見て、感じて、掴み取るもんとは天と地の差がある。それが全てとは言わねぇが、折角の機会だ。自分自身でその"鬼"ってもんを見てみたらどうだ?」
「…鬼は人を喰う化けモンや」
「ああ、そうだな。現にオレも今回殺されかけたし」
「怖く、ねぇの?」
「怖いさ。でももっと怖い思いをして、戦っているのが鬼殺隊の剣士達だ」
「…せやから炎柱様は凄い御人なんよな…」
「柱は皆、飛び抜けて異次元だよ。だが今回、一番体を張って俺を助けてくれたのは蛍ちゃんだ」
残りの桃の欠片を口に放り込む。
じゅわりと滴るように甘い果肉を飲み込むと、覆面を下げて見える目元だけを清に向けた。
「そこんところ忘れないようにな」