第5章 柱《弐》✔
ぬっと伸びる大きな手が、蛍の足首に迫る。
簡単にその手は蛍を捕えるはずだった。
「!?」
しかしそれは叶わなかった。
するりとすり抜けるようにして、蛍の足首が天元の掌から離れたのだ。
避けて抜け出したのではない。
天元の目には、まるで縮んだように見えた。
「なん…ッ」
それは見間違いではなかった。
足首から辿るように見た蛍の体は、着込んでいる白い隊服のサイズがまるで合っていない。
頭も、肩幅も、腰回りも、箱紐で縛った足も。
全てが小さな女子へと変貌していたのだ。
突然の変化に驚く天元に、生まれたほんの一瞬の隙。
(今だ…!)
その隙を蛍は見逃さなかった。
とんっと天元の太い腕を足場に弾むと、体制を空中で変えてするりと猫のように懐に飛び込んだ。
狙うは腰に下げられた風鈴。
「くっそ…!」
天元もまた柱。回避不可な体制でも尚、諦めなかった。
受け身を取ることを放棄して、体を後方へと倒す。
僅かに開いた距離に、蛍の鋭い爪の切っ先はまたもやベルトを掠った。
び、と革が切れる感覚はあったものの、元々できていた微かな切れ目を深めただけ。
風鈴は天元の腰に下がったままだ。
ドサリと倒れ込む巨体の上に、反動で蛍も馬乗りに倒れる。
その広い胸板に両手を付いて顔を上げれば、がしりと大きな手に襟首を掴まれた。
(まずい…ッ)
憶えがある。
最初の組手でも、天元に襟首を掴まれ膝蹴りを喰らった。
「ようやく捕まえたぜ」
二ィ、と不敵に笑う顔が迫る。
この大きな手に一度捕まってしまえば、今の蛍では自力で逃げ出すことは不可能だ。
特に今は、小さな子供の姿へと変わってしまっている。