第5章 柱《弐》✔
「暇だったんで、色々仕掛けを作っちまった。派手に面白いだろ?」
「……」
腕に刺さったクナイを抜けば、ぷしりと血が吹く。
そのクナイを構えるよう手にして、蛍は地面に降り立つ天元を見上げた。
「私は派手めのものより、地味な方が好き」
蛍が唯一我が家から持ち出せたのは、あばら家を後にする際、血に染まった着物を着替える為に身に付けた一張羅の振袖と襠有袴(まちありはかま)だった。
蛍が成人する際に姉が買ってくれた卸したての流行衣類だ。
若い娘が好むような明るい色ではない。
なるべく上質な布をと、姉が購入したのは地味な色合いのものだった。
なけなしの金を叩いて買った為に、色合いまで手は回らなかったのだろう。
それでも葡萄色(ぶどういろ)の袴に、桔梗と扇が刺繍された水浅葱色(みずあさぎいろ)の振袖は蛍の一番のお気に入りとなった。
毎日毎日特別な日でもないのに着込むものだから、すぐに駄目になるよと姉に呆れ笑われた程。
それでも止めなかった。
姉の優しさが詰まった、何ものにも代え難い大切な品だ。
「俺とは反りが合いそうにもねぇな」
「……」
「合いたくもねぇってか」
合図などはなかった。
絡まる視線に、先に飛び出したのは蛍。
頭部目掛けて投げ付けたクナイは、あっさりと避けられた。
「攻撃が単調だなァ!」
どんなに隙を突こうとしても、ことごとく先を読まれて攻撃は阻まれる。
尚且つカウンターを喰らうものだから、折角治りかけていた体に再び青痣が生まれた。
どうにか盾にした両腕で打ち込まれる打撃を防ぎながら、蛍は倒れないように踏ん張り続けた。
「守りに徹してちゃ相手を倒せねぇぞ!」
「ッ」
天元の挑発に、蛍の片足が軸を返して反転する。
回転させた体の反動で跳び上がると、真横から風鈴を狙うように蹴りを向けた。
(挑発に乗りやがって。甘いな!)
天元にとっては想定の範囲内だった。
大きな体を器用に捻らせ、すれすれで蹴りを避ける。
その足首を掴んで捕えてしまえば、再び己の手中だ。
「今度は逃さねぇよ…!」
今度こそ逃すつもりはない。
捕えた体を朝日に照らして、朽ちる姿を拝んでやろう。