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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第17章 初任務《弐》



「…でもね、私だって炎柱の継子だから。微力でも力になりたいって思うの」


 そして出来るなら、己の手で任務を成功させたかった。
 華響を説得させることさえできなかった自分が何を偉そうにとも思ったが、それもまた本音だと力なく笑う。


「何を言う。鬼を見つけ、立派に役目を果たしてくれただろう! 俺の命を繋いだのも蛍の影鬼だぞ。君のお陰で隠の彼も無傷でいられたんだ。…それに反省すべきは俺の方だ」


 そんな蛍に明るく強く引き上げるような言葉を向ける杏寿郎は日頃の彼そのものだったが、最後に見せたのは珍しくも陰る表情だった。


「君を二度と己が刃で傷付けないと約束したのに、同じことをしてしまった」

「ああ…あれ、」

「意識があったのか?」

「ぼんやりとだけど」


 体中を鬼の花に蝕まれながらも、蛍の右目だけの視覚は辛うじて生きていた。

 突如頸に感じた悪寒と痛み。
 それと同時に見えたのは、目を見開き息を呑んだ表情でこちらを見てくる杏寿郎の顔だった。
 まるで自分が斬られたかのような顔で。


「杏寿郎の日輪刀は、華響の血鬼術と違って体を暴くような痛みじゃないから」

「それでも傷付けたことには変わりない」

「大丈夫だよ。ほら、もう治ってる」


 頸に刀傷など一つも残ってはいない。
 なのに険しい顔を変えない杏寿郎は、己を己で許せていないのだろう。


「わざとじゃないでしょ? 華響の幻覚の所為だったし」

「わざとでなければ君を斬っていい理由にはならない」

「…それは、まぁ…」


 杏寿郎の言い分はわかる。
 だがそこまで気にしていないのも事実だ。

 幻覚に惑わされながらも不穏を感じ止めてくれたのだから、軽傷であることこそが奇跡。
 不可抗力の上でのものだとも認識している。

 頭の切り替えは速いが、意志も強いが為に己の過ちだと思えば簡単には覆さない。
 そんな杏寿郎を前にどうしたものかと、蛍は頸を捻った。


「…じゃあ、」

「?」


 暫く考え込んだ後、諦めにも似た吐息を一つ。
 ちょいちょいと手招きをすれば、素直に杏寿郎は蛍と同じ布団の上に膝を乗せた。
 等しく膝を折り、近距離で向き合う。

 するりと蛍の手が、握る杏寿郎の掌から抜け出した。

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