第17章 初任務《弐》
「一般人の人も、巻き込んでしまって…救えなかった」
「だが君は大事な任務を全うしてくれただろう」
「鬼を倒したこと? それは杏寿郎の手柄で」
「そうじゃない」
項垂れていた蛍の顔が、杏寿郎を伺うように見る。
覆うように優しく握っていた杏寿郎の手に、僅かに力が込められた。
「初めての任務で生き抜いた。生きて、こうして俺の前にいる」
「…それは鬼」
「鬼は関係ない」
蛍の思考を読み取ったように遮る。
鬼であれば対鬼との戦いで命を落とすことはないなどと、杏寿郎は思わなかった。
あの場で華響を倒すことができなければ、蛍は永遠に生きる屍とされていたからだ。
「"生きる"ということは肉体に対してだけではない。俺とこうして向き合い、手を握り、言葉を交わせている。それが何よりの成果だと言ったんだ」
「……」
「初任務で、新人剣士の生存率がどれ程のものか知っているか?」
「え? ううん」
「三割だ」
それでもどことなく暗い蛍の表情に、続けた杏寿郎の話は驚くべきものだった。
「そんなに低いの?」
「俺の初任務でも、沢山の同志が命を落としたと話しただろう」
「…うん」
「任務成功率となれば、より低くなる。故に初任務は他剣士との合同任務であったり柱の補佐であったり、単体では向かわせないことがほとんどだ。無論、鬼の出現によりやむを得ない場合もあるが…俺が蛍の傍にいるのは、師として教え導く為だけではない。君を守る為だ」
握った掌を己の胸に引き寄せて。強く大きな双眸を閉じると、杏寿郎は言葉を噛み締めた。
「よく、生き抜いてくれた」
昨夜は、鼓膜を破いていた為に声は聞こえなかった。
しかし意識を飛ばす瞬間に見た杏寿郎の表情と、今のそれが重なって見えた。
「…うん…」
その気持ちが手に取るようにわかる訳ではないが、その心を汲みたいと思った。
布団の上で膝を折ると、体ごと杏寿郎へと向き直る。
「私も。杏寿郎が怪我をしなくて、本当によかった」
生存率の低さは人と鬼との身体の違いもあるだろう。
だからこそ心の底から安堵した。
華響の血鬼術を直接的に喰らった者が、自分でよかったと。