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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第17章 初任務《弐》



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 トトト、と陽が差す廊下を小走りに走る足。
 弾む顔で清が持つ御膳には、これでもかと果物が盛り付けられていた。

 鬼を倒したとの吉報を鎹鴉にて知らされたのは昨晩のこと。
 ほとんど時間差なくその後すぐ藤の門を潜った炎柱は、怪我一つ負っていなかったと言う。

 しかしその腕に抱えていた継子の鬼は、全身血塗れで酷い損傷だった。
 左目は潰れ、鼓膜を破き、喉を裂き、手足は何かに貫かれたような跡が幾つも残っていた。

 幼い少年であった清は「見るな」と父に制され一瞬しか垣間見ることができなかった。
 それでも紅を差した唇から血を滴らせていた蛍の姿は目に焼き付いている。

 蛍の様に慌てる藤の者達に対し、杏寿郎は冷静だった。
 湯と布と代えの着物だけを所望し、手伝いは一切不要だとして屋敷の隅の一室へと蛍を連れて襖を閉じた。

 何故手伝いが不要なのかと清が疑問に持てば、父は鬼だからだろうと憶測を立てた。
 手負いの鬼は血肉を求め危険性が増す。
 その為ではなかろうかと。

 故に部屋に近付くことは禁止された。
 それでも鬼を滅してくれた炎柱の為に何かできないかと幼い頭で考えた末に果物を届けることにした。
 せめてこれくらいなら鬼を見張る片手間でも食すことができるのではないかと。






「おい待て坊主」


 人気のない廊下を一人ひた走る。
 止めたのは、一本道である廊下を塞ぐように立っていた黒尽くめの男だった。


「隠のあんちゃん…」

「どうした。こっから先は立ち入り禁止だぞ」

「炎柱様に何か食べてもらおう思って…」

「そっか、ありがとよ。けど今は必要ないって言われなかったか?」

「果物なら簡単に摘まめるし。鬼を見張りながらでも食べられるんとちゃうかな」


 炎柱としての役割は理解している。
 その上で何かしたいのだと訴えれば、後藤は道を譲ることなく頸を横に振った。


「炎柱さんのことを思うなら今はそっとしておいてやれ。腹が空いたと自覚すりゃ、あの人のことだから自分から言ってくるだろ」

「せやけど…」

「それに一つ訂正な」

「え?」


 人差し指を立てて、しぃと口元に寄せる。
 この先の部屋にいる二人には聴こえないようにと。


「見張ってるんじゃなくて、傍で見ていたいんだよ。あの人は」

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