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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第17章 初任務《弐》



(…化け物、か)


 以前であれば、笑止と両断していた言葉だ。
 人を襲い喰らうお前達こそが化け物だろうと。

 しかし鬼の目から見れば、容赦なく頸を捥ぎ取る己もまた化け物に見えるのだろう。
 蛍にとって、恐怖の対象が人間であったように。

 ふぅ、と軽くなった息を零す。
 華響の体が灰のように塵となって消えゆくと同時に、体を蝕んでいた強い疲労と息苦しさが消えた。
 血鬼術から解放されたのだ。

 すぐさま頭を切り替えると、日輪刀を鞘にしまうより早く倒れたままの蛍へと駆け寄る。
 その身を抱き起こせば、顔や体を埋もらせる程に咲き誇っていた彼岸花がはらはらと杏寿郎の前で散っていった。


「蛍。蛍、俺がわかるか。蛍、」


 いつものような腹の底から出す大声ではないが、途切れることなくその名を呼び続けた。
 ひたひたと頬を叩けば、やがて生きた屍のように微動だにしていなかった蛍の、虚ろな右目が微かに動いた。


「…ょ…ゅ…」


 血のこびり付いた唇が掠れた声を吐き出す。
 その動作を目で確認すると、杏寿郎はようやく眉間に刻んでいた皺を解した。

 それでも未だ緊迫した状況だ。


「無理に喋らなくていい。このまま藤の家まで運ぶから、蛍は体を完治させることに集中してくれ」

「…っ」


 しかし蛍の口は止まらなかった。
 体から花の種は取り除かれたが、喉はまだ根に潰されたままだ。
 はくはくと音無き問いを零す蛍の唇の動きを、杏寿郎の目が読み取る。


「ああ、鬼は滅した! 俺も隠も、皆無事だ」


 日輪刀を鞘に戻し、血に濡れた蛍の背中と膝裏を支えて抱き上げる。
 鼓膜も花の根により再度破けてはいたが、杏寿郎の明るい表情で答えは知れたのだろう。
 目と口を閉じる蛍の体から、ようやく力が抜ける。

 同時に影鬼も解除されたのか、杏寿郎の耳に己を呼ぶ後藤の声が聞こえた。
 それでも目の前の蛍から目を離さぬまま。その身を抱き寄せると、腕の中にある確かな体温を杏寿郎は静かに嚙み締めた。


「…よくやってくれた」

















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