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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第17章 初任務《弐》



 信じられないものを見る目で、華響が蛍を凝視する。
 華響の髪から解放された体は未だ回復しておらず、血塗れのまま地に伏せている。
 延々生気を吸い続けていたその体は、鬼であっても仮死状態に陥っていたはずだ。
 なのに血鬼術を発動し続けていたと言うのか。


「君の敗因は俺じゃない。蛍の力を見誤ったことだ」


 杏寿郎に対する警戒は怠らなかった。
 ただ唯一、未熟な鬼だと軽視した蛍に足を掬われた。

 ゆっくりと刃を振り上げる杏寿郎に、首筋に寒気が走る。
 長い時を生きて幾度か感じたことのある死の気配が、今までになく確実にすぐそこまで迫ってきていた。


「 … や 、や メ … 」

「人間であった君に非はない。だが蛍を盾として利用したお前だけは許さん」


 例え敗因が蛍だとしても、無音の世界でここまで怒涛の攻防ができる鬼狩りなど見たことがない。
 ましてや息継ぎもなく、呼吸技を肺の中で巡らせるなど。

 振り上げられた刃が、闇の中で貫く赤い一閃のようにも見える。
 淡々と告げる声には情けの一欠片もない。
 またも男の顔は見えずに、貫くような双眸だけが華響を無情に見下ろしていた。

 到底人成らざる所作と風貌に、ひゅくりと喉を震わせる。


「 っ … 化 ケ 物 … 」


 ざん、と振り下ろされる刃。
 胴から離され宙に舞う女の頭部が、鈍い音を立てて石畳に転がる。
 か細い悲鳴のような最期の言葉は、恐怖に染まったものだった。

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