第17章 初任務《弐》
「 鬼 の 生 気 は 延 々 吸 イ 続 け ら れ る ト し て も 、人 間 よ り 遥 か に 不 味 イ 。喰 う に 耐 エ ん 」
「だから鬼は餌にはならない」とつまらなさそうにぼやく。
華響の言葉に、ぴくりと日輪刀の切っ先が揺れた。
「ならば手放せと、ッ言っている!」
口を開けば、花が喉を詰まらせてくる。
それでも踏み込んだ足で、刃は鋼のような髪束を断ち切った。
「 っ !? 髪 ガ … ッ 」
「何か勘違いをしているようだが、呼吸を使わずともこの刃であれば鬼の頸は断ち切れる」
その為に血の滲むような鍛錬を続けてきたのだ。
誰にも教わらずとも、たった一人で。
花を吐き出さない唯一の方法は息を止めること。
口を真一文字に結んだ杏寿郎は、息を止めたまま流れるように動いた。
雨のように落ちてくる髪の針を全て断ち切り、その先に立つ白い女の下へと駆ける。
(獲った!)
呼吸技がなくとも鬼を獲ることができると知らなかったのか。目を見開いた華響は硬直したように動かない。
その細い女の頸に、的確に赤い日輪刀は振り下ろされた。
「ほ──…!」
刃が女の頸を断ち切る間際。
杏寿郎の目に、景色が一瞬だけ遅れた。
後方で叫ぶ後藤の声が聞こえた訳ではない。
それよりも先に、己の研ぎ澄ました感覚が視覚を飛び越えたのだ。
ぞわりと背筋を凍らせるような悪寒。
「ッ!」
理由のない直感は、命を懸けた場所でこそ意味を持つ。
咄嗟に手首を捻り逸らした刃は、女の頸から逸れた。
しかし刃は皮膚を掠り取っていたらしく、ぱっと白い頸から僅かに赤い血が舞う。
見開いた華響の大きな瞳。
ゆらりと、その眼球が揺れた。
「蛍ちゃん…ッ!」
悲鳴のような後藤の叫び。
同時に蜃気楼のように、華響の姿が杏寿郎の前から消え去る。
其処に立っていたのは狙ったかの鬼ではない。
体中に彼岸花を咲かせた、生きる苗床となっていた蛍だった。
「 ふ フ … 惜 し い ノ う 。あ と も ウ 少 し で 、鬼 の 頸 が 取 れ た ト い う の 二 」