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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第17章 初任務《弐》



 底冷えするような響きに動きを止めたのは後藤だけではなかった。
 笑う華響の表情もまたぴたりと止まる。


「 … 嫌 だ ト 言 っ た ラ ? 」

「ならば取り返すまで」


 言葉のやり取りは一度だけ。
 初動もなく地を蹴った杏寿郎の姿がその場から消える。


「うわっ!?」


 しかし敵へと突っ込んでいくのではなく、その足は後方へと下がった。
 動けなくなっていた後藤の胴を片腕で持ち上げ、トンネルとなり連なっている鳥居の上へと跳び乗る。


「君。動けそうか?」

「へっ? あ、え、ハイ…!?」

「無理なら此処でじっとしていなさい。此処にいれば鬼の毒牙は来ない」


 腰を抜かしたままの後藤をその場に下ろすと、一度も顔色を伺うことはなく。強い双眸は鬼を捉え続けたまま、杏寿郎は再び鳥居の柱を蹴り上げた。
 ごッと炎がうねるような音を後藤が耳にした時、既に炎の背中は遠退いていた。


「 ふ フ ふ … ! 何 処 を 見 テ い る ? そ こ で は ナ い ぞ … ! 」


 真上から振り下ろし様に一撃。
 着地と同時に足を軸に振り返り二撃。
 女の笑う声が響いたと思えば三撃目が落ちる。

 日輪刀が華響の体を断ち斬る度に、全く違う場所に現れる新たな華響。
 鳥居の上から恐る恐る覗く後藤の目には、華響の姿がまるで分身のように増えていくようにさえ見えた。
 その合間を目で追えない速さで杏寿郎が日輪刀を振るう為、まるでトンネル内に炎の光線が走っているかのようだ。


「す…すげぇ…」


 トンネルの中に身を置いていれば、たちまち巻き添えになっていただろう。

 華響の分身が増えるより速く、杏寿郎の日輪刀が即座に斬り捨てていく。
 やがてそれは最後の一体に辿り着いた。
 残された本体だと、大きく振るった杏寿郎の日輪刀に炎が纏う。


「"壱ノか──ッ、」


 しかし刃が華響に届く前に、呼吸を繋いだ喉は悲鳴を上げた。
 音なき嗚咽を漏らす杏寿郎の口から、ごぽりと赤い花弁が舞う。


「 い ク ら 屈 指 の 鬼 狩 り ト て 、そ の 技 は 息 ヲ 繋 い で 作 り 出 す も ノ 。花 紅 柳 緑 を 喰 ら っ た 貴 様 は 、も う 呼 吸 ナ ど 使 え ヌ わ … ! 」


 お歯黒の口が、裂けるように笑った。

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