第17章 初任務《弐》
「 そ う ダ 。男 の 声 は 気 に 入 ラ ん が 、あ ノ 男 の 声 な ら 興 味 が ア る 」
ふ、と。
思い出したかのように、華響の手が己の喉を撫で擦る。
「 何 せ 強 イ 鬼 狩 り の 技 を 習 得 シ た 声 だ 。よ く 通 る 小 気 味 良 イ 音 色 も し テ い た 、悪 く ハ な い 」
ぴくりと、蛍の唯一見える右目が揺らぐ。
「 あ の 男 ノ 名 前 は な ん ダ っ た か 」
面白そうに三日月の目で嗤うと、華響は潰れた声で嗤った。
「 そ う ダ 。杏 寿 郎 ト
言
っ
タ
か」
嘲笑うかのような華響の声が、突如として縦に割れた。
額から顎にかけて、ぴしりと美しい顔に垂直に走る切れ目。
何事かと後藤が驚く暇もなく、その場はびりびりと強い威圧に包まれた。
まるでその場の重力が一気に増したかのようだ。
「生憎、君に呼んでもらう為に付けてもらった名ではない」
声は後藤の目の前からした。
威圧の重力とは真逆に、ふわりと舞う炎の羽織。
「気安く呼ばないでくれないか」
足が地面に下り立てば、其処から広がる波紋のようにびりびりと響いていた重力が消えた。
それでも威圧に中てられた後藤はまともに立っていられなかった。
へなへなと腰を抜かして座り込んだまま、覆面から覗く両目で見上げる先には。
「ぇ…炎柱、さま…」
突如として現れた、背を向けて立つ柱の姿があった。