第17章 初任務《弐》
(どうしたら…ッ)
日輪刀を持たない後藤の手では、鬼を滅することはできない。
ただ黙って事を見守るしか道はないのだ。
隠という役割を持って生きてきたが為、後藤にもわかりきっていることだった。
それでも蛍は、迷うことなく己より後藤を優先した。
そこに目を背けられる程、無情ではない。
(このことをどうにか炎さんに伝えねぇと、蛍ちゃんが…!)
血のように赤い彼岸花と、月光のように白い彼岸花。
体中から幾つもそんな花々を咲かせている蛍は、死なずとも生気を延々と吸収され続けている。
指先一つ動かせなくなる程に。
そんな今の蛍では、華響を討てる可能性は限りなく低い。
自分では助けられない。
だからこそ炎柱である杏寿郎の存在が必要不可欠となる。
しかし蛍を見送った後「自分もこれで」と一言添えた杏寿郎は、まるで旋風のように一瞬にして後藤の前から消え去った。
そんな男の所在など見当もつかない。
稲荷山はその名の通り、山の中。
広いこの土地で大声を張り上げても、杏寿郎の耳に届くことはないだろう。
だからこそ蛍は──
(蛍、ちゃんは?)
苦虫を嚙み潰すように、食い縛っていた口内の力を緩める。
はっとした後藤の目が向いたのは、華響が立つ場所ではなく。
「…あれだ」
薄暗い鳥居のトンネルの中。
後藤の後方にぽつんと投げ出されて落ちていた、赤い番傘だった。
赤い着物姿で、等しく赤い番傘を差す。
殊更浮世離れした蛍の姿は目を惹き、同時に後藤と杏寿郎に同じ疑問を持たせた。
『何故、傘を?』
『鬼に見つかり易くする為です。こうして差して歩いていれば、夜でも少しは見栄えるでしょう?』
『成程。考えたな』
『…それと、』
『む?』
思い出す。
稲荷山に登る前に、問いかけた杏寿郎に蛍が笑いかけていた姿を。
『師範にも、見つけてもらう為に』
(それだ…!)