第17章 初任務《弐》
「お、オレのことはいいから! あの鬼を…!」
「後藤さんを助けるのが先!」
長くぞろ引く髪の束を鷲掴む。
力任せに引き寄せれば蛍の腕力に分があるのか、後藤の体を巻き取ったままの髪束は引き摺り下ろされた。
「 自 分 か ら 罠 に 飛 び 込 厶 愚 鈍 な 鼠 の ヨ う だ な 」
「蛍ちゃん!」
「大丈夫、こんなもの…ッ」
蔓よりも強い力で蛍の四肢に纏わり付いてくる、無数の髪束。
腕に足に頸に顔に。
それでも蛍は引き下ろした後藤の体を纏う髪を千切ろうと、手を止めなかった。
力は強いが、鋭い爪先で切れないことはない。
少しずつでも束を減らしていけば髪の圧力も減る。
やがては後藤の胴体に太く巻き付いていた、髪束の拘束が解けた。
ち りん
普段なら聞き落すような儚い音色。
何故か耳に残ったそれに、蛍は誘われるように目を向けた。
トンネルのように続く鳥居の隙間。
其処にいたのは行きにも出会った白い猫だった。
背を向けて立つ華響の後ろで静かに闇の中に一匹、座っている。
何故猫がそんな所にいるのか。考える前に、はっとした蛍の目がゆらりと前に立つ白い着物に向く。
お歯黒の口を三日月のように、にんまりと開く鬼だ。
悪寒がした。
「駄目ッ!」
「ッ!?」
第六感のようなものだった。
咄嗟に蛍の両手が後藤の耳を塞ぐ。
「 通 り ゃ ん せ 」
歪んだ口から流れ出たのは、綺麗な女の歌声だった。
「後藤さんを絶対に花吐き病にはさせない…!」
「ほ、蛍ちゃん…」
「 ふ … よ う ク 、わ か っ タ な ぁ 」
ぞわぞわと両腕に絡みつく髪束が、蛍の手を引き離そうとする。
足を踏ん張り腕に力を込め、それでも後藤の耳を潰さないようにと蛍は両手で塞ぎ続けた。
「 だ ガ 一 つ 勘 違 い し て い ル ぞ 。こ の 歌 ハ 、そ の 人 間 に だ ケ 有 効 な 訳 で ハ な い 」
つ、と華響の鋭い爪が蛍を指す。
「 お 前 の 耳 に モ 今 度 は 届 い タ だ ろ ウ ? な ア 、蛍 」
「…え」