第17章 初任務《弐》
(長く生きてきたみたいだけど、もしかして話し相手が欲しかった?)
「 …言 っ て ク れ ル 」
(私は話し相手になりたかったよ。でもお互いに相性はよくないみたい。…だから、)
「!?」
「お、え…ッ」
自らの喉奥に手を突っ込む。
嗚咽を漏らしながらもぶちぶちと蔓を引き千切った蛍は、未だ蕾であるそれを地面へと投げ捨てた。
「ぷっ…とりあえず体が植物人間になる前に、一度叩きのめす」
「 は 、誰 が 人 間 ダ 。お 前 も 鬼 だ ロ う 」
(そうだよ。だからこれくらいで死なない!)
「 ゲ … ッ !? 」
花の蕾が覗く面積は、腕より足の方がまだ少ない。
その足で風を切った蛍の蹴りが、薪を割る斧のように斜め上から打ち込まれた。
腹を強打し弾かれた華響の体が、後方へと弾かれる。
(杏寿郎は実体を掴めないって言ってたけど、全てが幻覚じゃないみたいだね)
「 ゲ ほ … ッ 力 任 せ の 品 の ナ い 奴 メ … 貴 様 は 、美 し く ナ い 」
(お生憎。私は、これでここまで生きてきたので)
右手に絡む蔓を、ぶちりと引き千切る。
体内から暴れ顔を見せる蕾は苦痛を与えてくるが、我慢できない程ではない。
体の大半を風鈴の爆発で失った時や、全身を火に焼かれた時に比べればまだ動く。
ぱしりと掌に拳を打ち込むと、足の痛みを無視して蛍は地を蹴った。
右へ左へ。
不規則に地を蹴り跳ぶ蛍の所在を、華響の目では捉えられない。
鳥居の柱をも足場にして跳ぶ蛍は、重力を無視して縦横無尽に駆け巡った。
「 ッ ウ ぐ … ! 」
すれ違い様に鳩尾に一発。
着物の裾を払って踵に一発。
重い蛍の一打は、華響の口から悲鳴を上げさせた。
(血鬼術は私の方が劣るかもしれないけど。でも長年隠れて食事を選り好みしてきた相手に、身体で負ける気はないから)
「 こ 、の … 小 鬼 め ガ … ! 」
(いい加減、後藤さんを放して!)
それでも唸る華響の伸びた黒髪は後藤を捕えたまま。
このままでは埒が明かないと、蛍は直接縛られた後藤の下へと向かった。