第17章 初任務《弐》
「その人の、大切な人の目を、穿り返じた。ただ自分の欲を、満たず為に。そんな華響に、ぞの人を愚弄する権利は、ない」
力を増していく手首への圧に、それでも華響の目は他人事のように見下ろしていた。
「 食 事 す ナ わ ち 糧 。妾 ハ 糧 か ら 一 つ 、特 に 気 に 入 っ た モ の を 貰 っ て い ル だ け だ 。餌 と ナ り 果 て た 時 点 で 、全 て ハ 妾 の 所 有 物 。人 間 ト て 同 じ だ ろ ウ 」
「違う」
『やはり蛍が炊いてくれる米は一等美味いな! ご馳走様!』
『はいお粗末様。あ、今日も完食してくれたんだ』
『当然だろう! 俺の為に作ってくれたものだからな!』
「杏寿郎は、ご飯粒一つだって残ざない。毎日頂ける食事に、感謝して食べてくれる」
杏寿郎だけではない。
蛍の作ったおはぎを握り潰した後に、残さず平らげた実弥も。
節分で使用した小豆を一粒残らず、宴の肴にした天元達も。
誰一人、餌と称して食事をぞんざいにする者など鬼殺隊にはいなかった。
「そんなごとも忘れてしまっだあんたは、人の心を忘れた、ただの鬼だ」
一言一言、重く告げる。
蛍のその言葉に、ぴきりと華響の額に初めて青筋が浮き立った。
「 小 鬼 風 情 が 、口 先 だ ケ 偉 そ う に … も う 飽 イ た 。お 前 は 要 ら ナ い 」
「っぐ…!」
握り潰さん程の力で手首を掴んでいた蛍の手が唐突に緩む。
その腕にはぞろぞろと内部から突き破ってきた蔓が、浸食するように絡み始めていた。
「 さ っ さ ト 花 ノ 養 分 と 」
冷たく言い放つ華響の言葉は最後まで続かなかった。
瓦礫を割るような鈍い音が、ごどん!と落ちる。
落ちたのは音だけではない。
「 ガ … ッ !? 」
女の美しい顔が、歪む程に地面へと叩き付けられた。
(あんたも十分、お喋りが長い)
今一度強く握った華響の手首を、蛍が懇親の力で引き抜いたことによる打撃。
喉奥から生えた太い蔓で会話はままならない。
しかし己の思考を華響は読み取れる。
それを知っていて、げほりと嘔吐きながらも蛍は脳内で罵った。