第17章 初任務《弐》
「 何 も 知 ら ヌ は お 前 ノ 方 だ 。な ァ 蛍 」
「だから知ろうとしてるんでしょ…! 後藤さんを放して!」
棒立ちに笑う華響に、蛍が握った拳を向け飛躍する。
それを避ける身振りもなく、華響は鋭い爪を持つ人差し指と親指を重ね合わせた。
「 な ら バ 教 え て ヤ ろ ウ 」
ぱちん、と指を鳴らす。
ただそれだけだった。
「ッ!?」
音を聞くや否や、蛍の中でぴきりと何かが絶たれるような感覚がした。
殴りかかろうとした足を止めた蛍の目は、地面を凝視し体が震える。
「 妾 の 血 鬼 術 ハ 、お 前 の 察 す ル 通 り 歌 を 通 じ テ 種 を 植 え ル 。通 常 な ラ 歌 が 種 と な ル ま で 時 間 は 生 じ る ガ 、お 前 に は 直 接 種 ヲ 植 え 付 ケ た 。咲 く ノ に 時 間 は 必 要 ナ い 」
「ぐ…ッ」
びきびきと蛍の皮膚の上を浮き出た血管が走る。
胸を詰まらせ喉を鳴らした蛍の口から、ごぼりと這い出たのは蔓を伸ばした蕾だった。
杏寿郎の時とは違い、血を滴らせた蕾が蛍の喉奥からずるずると這い上がる。
「 ほ ウ 。新 し イ 発 見 だ 。鬼 の 血 モ 花 の 養 分 ト 成 り 得 る の ダ な 」
「ゴふ…ッ」
「 さ て は テ 、お 前 は 綺 麗 ナ 花 を 咲 か せ テ く れ る か ナ ? 」
ぶちぶちと血管が内部から裂けていくような感覚。
堪らず膝を折る蛍の口から、目元から、耳から、赤い血が滴った。
「蛍ちゃん…!」
「 名 を 呼 ん ダ と こ ろ で 助 か リ は し な イ 。ま ぁ 鬼 で あ ル 故 、花 を 咲 か せ テ も 死 ぬ こ と は ナ い が 」
「う、ぐ…ッ」
「 生 き た マ ま 生 気 を 吸 わ レ 、永 遠 に 花 ノ 宿 主 と な ル 」
ぶちりぶちりと血管を突き破り、細い蔓が蛍の腕や足から顔を出す。
「 死 ん ダ 方 が 余 程 幸 セ だ と 思 ウ が な 」