第17章 初任務《弐》
「 … 妾 に 敵 対 す ル と で も 言 ウ の か ? 同 族 の 癖 シ て 」
「確かに私は、鬼だ」
最初に対峙した時のように、片足を下げた蛍が握った拳を体に添える。
「でも華響と同じじゃない」
はっきりと拒絶の意を示す蛍に、華響の目が細まる。
張り付くような威圧は、美しくも冷たく見える華響の姿から感じられた。
「 そ ウ か 。折 角 手 を 差 シ 伸 べ て や っ タ と い う の ニ 、お 前 は 拒 絶 す ル の だ ナ 」
「華響のことは、知りたいよ。私は外の鬼を知らないから。でもその為にさっきみたいに人を殺せと言うなら遠慮する。私は私の道で、外の世界を知る」
「 … 浅 い ナ 」
紅を差した唇が大きく裂ける。
「 知 識 も 経 験 も 浅 イ 癖 に 、宣 う こ と ダ け は 一 人 前 だ 。お 前 を 飼 イ 慣 ら し タ 人 間 も そ う な ノ だ ろ う 」
「…杏寿郎のことを悪く言わないで」
「 ふ フ 。な ら ば 止 メ て み ヨ。お 前 自 身 ノ 手 で 」
大きく歪ませた口で笑いながら、華響はふらりと一歩踏み出した。
「 で な け レ ば 、其 処 に 隠 れ て イ る 人 間 も 喰 ラ う ぞ 」
「え?」
ざわりと華響の黒く長い髪が揺らいだ。
長い長い絹のような黒髪が、ぞろぞろと揺らいでいたことに蛍が気付いた時には遅かった。
「おぅわッ!?」
「後藤さん…!?」
細く細く蜘蛛の糸のように伸ばしていた毛先は、獲物を既に捕らえていた。
華響の髪に足首を絡め取られた後藤が、茂みの中から宙吊りに引き摺り出される。
「 常 に 距 離 を 保 っ テ 様 子 を 見 て い タ 。大 方 こ ノ 人 間 も 、お 前 の 共 存 相 手 ト や ら な ん ダ ろ う ? 」
(なんで後藤さんの存在まで…まさか華響は十二鬼月?)
柱である杏寿郎の手からもすり抜けられた鬼だ。
血鬼術も蛍の想像を超えた能力を有していた。
確かな実力を持つ鬼なのかもしれないと勘繰る蛍に、華響は思考を読み取るようにくすりと笑った。