第17章 初任務《弐》
「(お前は歪ながら、華やかさを持ち得ている。妾がそれを本物の美に変えてやろう)…ど ウ だ ?」
「!」
「 そ ラ 、鼓 膜 も 治 り 始 メ た 」
聞こえなかったはずの華響の声が、ぼんやりと音となって届く。
つつ、と華響の細長い指先が蛍の耳朶を撫で上げた。
「 お 前 ハ 鬼 だ 。人 間 で は ナ い 」
鬼であることを、こうも歓喜の声で告げられたことはなかった。
戸惑う蛍の心が顔に出たのか、華響の眼球のない目が細まる。
「 妾 達 は 心 半 ば に シ て 一 度 死 ン だ 身 。折 角 手 に 入 れ タ 生 だ 、今 度 コ そ 謳 歌 せ ず シ て ど ウ す る 」
華響の瞼が閉じる。
不気味な空洞を閉じれば、たちまちにそれは美しい女の顔と化す。
瞳が見えずとも、目が奪われるような美女だ。
その陶器皿のような瞼から、ぼこりぼこりと不可解な音が鳴る。
思わず凝視する蛍の前で、再びゆっくりと華響の瞼が開いた。
「え…っ」
そこには、先程まではなかったはずの瞳が存在していた。
長い睫毛を揃えた綺麗な二つの瞳は、華響の顔を更に惹き立てた。
大きな黒目の中には芯の強さのようなものも見える、澄んだ瞳だ。
「 ど ウ だ 、妾 の 新 し イ 眼 ハ 」
「新しい、眼…?」
「 こ れ ハ 特 に 、綺 麗 な 眼 ヲ し て イ た か ラ 気 に 入 っ た ン だ 」
「一体、なんのことを」
頭の中に響く声と、実際に耳に届く途切れ途切れの声。
重なる音に理解が追い付かない訳ではない。
華響の言葉の意味を理解する為に、反復しようとした。
「…芳乃…?」
蛍のそれを止めたのは、後方から届いたか細い声だった。
「その目…芳乃か…!?」
振り返った先には、華響に弾き飛ばされ気絶していたであろう男が意識を取り戻していた。
その目は華響だけを見つめている。
「よし、の…?って…」
「芳乃…! お前、生きてたんか…!」
「生きてるって。誰が?」
芳乃という者のことは知らない。
しかし縋るように華響へと足を向ける男の喜び様は、嫌な予感を感じさせた。
「(もしかして…)亡くした、奥さん…?」