第17章 初任務《弐》
「…哀れだなんて、思ってない」
華響の向けてくる視線は眼球などなくとも計り知れた。
等しく視覚を持たない行冥にも向けられた感情だったからだ。
(違う。あの人とは)
否、似ても似つかない。
行冥と華響の言葉の重みはまるで違った。
(ふふふ。そうか、憐みは嫌いか。妾も同じだ。気が合うな)
睨み付けるように見てくる蛍とは違い、華響は気にした様子なく笑うばかり。
(だがお前は妾を見て哀れんだのだろう? 何故人間を餌と見るのか。何故わかり合おうとしないのか。その道を知らぬ哀れな鬼だと。だから諭そうとしたのだろう?)
「哀れだなんて、そんなこと」
(同じだ。その世界を知らぬからこそ、手助けをしたいと。そう思ったのだろう)
ふ、と華響の口の端が裂けるようにつり上がる。
(余計なお世話だなぁ、蛍よ)
「…っ」
(お前こそ、鬼の世界の何を知っている? 人間に目をつけられたばかりに、その道に染まってしまっただけの小鬼よ。翼を持って生まれても、蛇に育てられた鳥は地べたを這うことしかできぬ。お前の翼は空を知る前に、人間の手によって捥がれたのだ)
華響の言う通り、蛍は鬼の世界の何をも知らない。
全て耳にした情報は、鬼殺隊から教わったものだ。
鬼は人を喰らう無慈悲な化け物だと。
飲み込むことはできても、それを全て肯定することはできなかった。
してしまえば己の存在意義さえなくなってしまう。
唇を結び黙り込む蛍に、足音もなく華響がふわりと歩み寄る。
(鬼は群れぬ生き物だ。だがお前が望むなら、妾が生き方を導いてやろう)
「…生き方?」
俯いていた顔が上がる。
(知らぬから世界は狭まるのだ。人間に刷り込まれただけの世界で止まるな。鬼の目で世界を視て、生きてみるがよい)
知らないからこそ不安や恐怖を抱く。
だからこそ鬼殺隊を知ろうと、学ぼうとした。
蛍自身、そんな経緯があったからこそ華響の提案を否定できなかった。