第17章 初任務《弐》

（鬼の癖に可笑しなことを言う。人間と共存？　お前は餌を同類と見るのか？　魚や豚と言葉を交わし思いを伝え合えると？）

「……」

（餌場の豚共を喰い尽くしては、己が滅びる。人間もそうだろう、だから家畜を飼い慣らす。だから妾も不必要な殺生をしないだけだ）

「…人間は家畜じゃない」

（そこだ。お前の頭の[[rb:螺子 > ねじ]]が可笑しいのは。まだ人間を餌として見れていないだけかと思ったが…違ったな。お前は成り立てじゃない）


　つい、と華響の手が蛍を指さす。


（人間に飼い慣らされて、洗脳されたか。哀れな鬼だ）


　鬼殺隊の中で生かされている自覚はあった。
　それでも飼い犬や猫のような存在として扱われている気はなかった。

　華響からの初めての言葉に、言葉を失う。


「…違う。私は、飼い慣らされてなんかいない」


　ようやく絞り出した声は、からからに乾いた喉に張り付くように。


（何が違う？　あの鬼狩りは、お前など赤子の手を捻るように殺せるはずだ。それでもお前が今此処にいられるのは、人間と言葉を交わし共存している結果じゃない。お前が、あの鬼狩りに生かされ飼われているからだ）

「っ杏寿郎はそんな人じゃない。私と共に歩む未来を、望んでくれた」

（そうだろう。人間の思考に染まり、尚且つ血鬼術も扱える鬼など貴重だ。良い手駒になる）

「違うっ」

（何が違う。現にお前は、こうして妾も洗脳して取り込もうとしている。鬼狩りの思う壺だ）

「違う！　これは私の意志で動いているから杏寿郎は関係ないッ」


　淡々と否定され続けることに、つい声が荒れる。

　杏寿郎は、華響を必ず鬼殺すると言った。
　蛍を利用して鬼を取り込もうとする姿勢など露程もない。
　それでも蛍が動揺してしまったのは、今まで一度も至らなかった負の感情に、華響が貶めたからだ。


（ならば己の本能を呼び覚ませ。お前は誰だ？　人間ではない、悠久の時を生きることを許された存在だ。低俗な者の言葉に耳を貸すな）

「…私は、なりたくて鬼になった訳じゃ、ない」

（嗚呼…そうだな。妾とてそうだ。誰が望んで人間を辞めようか）


　張り付く喉に萎む声。
　その言葉を一つ一つ丁寧に拾い上げて、華響は笑った。


（妾もお前も、哀れなものよ。なぁ蛍）