第5章 柱《弐》✔
「っ…!」
痛む体を無理矢理に起こす。
皮膚に食い込んだ棘を抜けば、ぷつぷつと肌の上に真っ赤な真珠のような血が浮かんだ。
それくらいの傷なら数分で癒えるだろう。
それよりもこの細く小さくなってしまった腕の方が問題だ。
(…ん?)
違和感を覚えた。
「ん?」
今度は口に出して問い掛ける。
他の誰でもない自分自身に対して。
まじまじと見た腕は、いつもより細く小さい。
「な…なに、これ」
それはまるで幼少期の少女のように、変化していた。
茨の海にいることも忘れて、蛍は己の体を凝視した。
腕だけではなかった。
手足も胴体も身長も、十歳程のものへと変貌している。
「ぉ…鬼、だから?」
体内だけではなく外見をも変化させてしまうことは、人では成しえない。
これもまた鬼の力なのだろう。
そしてこの小さな体は、今の蛍にとって好都合だった。
天元の手からすり抜けたのも、茨の海に落ちて致命傷を負わなかったのも、幼い姿に変化した為だ。
そうとは知らず唖然と体を見下ろし沈黙していたが、やがて頭を振ると思考を再開させた。
今はそれよりも、この茨の海を脱出しなければ。
やがて空の白い月が消えてしまえば、太陽が顔を出すだろう。
「っん、しょ…」
小さな体で服を引き摺りながら、茨の群を抜けて地面に着地する。
小柄な体はすり抜けるように茨から抜け出し、大した傷は負わなかった。
(これ、どうやったら元に戻るんだろう…)
勝手に幼くなった体を元に戻す方法なんてわからない。
しかしどうにかしなければと、元に戻れと念じてみた。
「(戻れ戻れ戻れ戻れ戻)…った!」
するとみるみるうちに体は元の大きさへと伸び上がったのだ。
「え。凄い」
思わず感心してしまう程に。
しっくりと馴染む体は、本来の自分の年齢に見合ったもの。
掌を握ったり開いたり屈伸をしてみたり。多少の痛みは伴うものの、思い通りに動く。
(…小さくなぁれ)
物は試しと念じてみれば、今度はしゅるりと視線が下がる。
「え…すごい」
唖然と呟く。
再び縮んだ体は、今度は五歳程までの幼女へと変わった。
大きさだけでなく、声や四肢も幼い子供のもの。