第5章 柱《弐》✔
──────────
「…ぅ…」
ぴくりと指が震える。
痣を残す口から零れ落ちたのは微かな呻き声。
ゆっくりを瞼を開けば、ぼんやりと映る視界いっぱいに瞬く星空。
(…あ、れ…)
此処は何処だっただろうか。
思い出そうとする前に蛍の体が悲鳴を上げる。
「った…」
体中が痛い。
それは天元に滅多打ちにされた打撃の痛さだけではなかった。
物理的に体中を突き刺すような痛みがある。
ようやく意識が途切れる直前のことを思い出した。
天元に腕を捕まれ、宙に持ち上げられたまま容赦のない打撃を何度も受けた。
がつんと一つ喰らう度に、脳天が痺れ意識を飛ばしそうになる程の打撃だ。
たちまちに意識は揺らぎ朦朧とする。
もう駄目だと思った瞬間、ふっと体が浮いたような気がしたのだ。
あれはなんだったのか。
「いた…た、」
それにしても体中が痛い。
少しでも身を捩れば突き刺すような痛みが響く。
恐る恐る周りを見渡せば、そこは茨の海だった。
黒光りした棘が蛍の腕にも足にも胴にも背にも突き刺さっている。
(そっか…私、落下したような…)
悲鳴らしい悲鳴も上げられないまま意識はぷつりと途切れた。
そのまま茨の中で気を失っていたらしい。
「はぁ…」
抜け出そうとする気力もない。
力なく体を横たえたまま蛍は白む夜空を見つめた。
(全く歯が立たない…強いとは思ってたけど、ここまで差があったなんて…)
まざまざと見せ付けられた格の違い。
どんなに自分を神だ敬えと可笑しな発言をする男であっても、あれも柱なのだ。
そしてその発言通りに、組手中に型の取り方を教えてくれていた煉獄とは違い容赦なく敵と見做(みな)して拳を奮ってくる。
(このままじゃ本当に死んでしまう…)
どう足掻いても、見せ付けるように腰に下げられた風鈴には手が届きそうもない。
打開策など見つからず、力なく蛍は白む空を見上げ続けた。
(…え?)
はっとする。
空が白んでいる。
山中にて時間の感覚はわからないが気を失っている間に月は回ったのか。
寝入るかのように高度を下げていく月は、山に入った時より薄くなっていた。
(まずい)
このままでは、すぐに夜明けだ。