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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第3章 浮世にふたり



『家にまで来られては困ります…!』

『何言ってんだ。お前さんが借金をいつまで経っても返さないからだろ』

『利子もこーんなに溜まっちまってよォ。早くしねぇと、返せないくらい膨大になるぞ』

『借りたお金はちゃんと働いて返しますから…!』

『その働きが甘いつってんだよ!』

『もっと身を粉にして働け!!』


『…姉さん…?』

『こっちへ来ては駄目!』




 柄の悪い男達に、なんで必死に姉が頭を下げているのか。わからない程、私も幼くはなかった。

 偶にお米やお菓子が食べられていたのは。
 あばら家でも、我が家を持てたのは。
 毎日、温かい布団で眠れていたのは。




『なんだ、妹がいたのか』

『こりゃあ若くて健康そうだ! きっと金になるな』

『ハハ! あんたより稼ぐかもしんねぇぞ』




 姉さんが、体を売っていたからだ。




『お願いします、この子だけは…! 蛍には手を出さないで下さいッ』

『何を言ってんだ。働かせてくれって身売りしてきたのはそっちだろ?』

『お前さんの借金は、この小娘の借金だ』

『おい小娘、来な!』

『っ!?』

『蛍!』




 遊郭のような閉鎖的な店じゃない。
 誰だって迎え入れて、誰だって捨てていく。
 そんな規則なんてない身売りの小さな小屋で、姉は働いていた。

 膨らんだ借金も、馬鹿みたいな利子の所為だ。
 それでも言い訳一つしようものなら、痣が残る程に殴られた。

 そんな世界で姉さんは生きていたんだ。
 たった一人で、私を守る為に。




『お願いします! お願いします! 蛍だけは連れて行かないで!』

『るせぇなァ邪魔だ!』

『う"ッ』

『姉さんッ!!』




 腹を殴られ蹲(うずくま)る姉の姿に、血の気が退いた。
 私にとって、姉さんの死は世界の死。
 あの人がいなければ、私の世界は無い。

 だから。




『姉さん…っ私なら、大丈夫。姉さんができたことなら、私にもできるから』

『何を、言って…』

『だから、大丈夫だよ…大丈夫』

『…蛍…?』




 幼い頃からいつも姉の背ばかり見てきた。
 いつも私の前に立ち、辛いことや悲しいことから守ってくれた。

 もう泣き虫な子供じゃないんだ。
 今度は私が、姉さんを守るから。

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