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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第3章 浮世にふたり



 鬼と成り鬼殺隊に出会うまで、そう時間は掛からなかった。

 私が鬼と成り果ててしまったのは、一人の人間の死がきっかけだ。
 あの人の──姉さんの、死が。










『ねぇさん、ねぇさん』

『なぁに? 蛍ちゃん。そんなにくっ付いていたら、ご飯が作れないわ』

『ねぇさん、だいすき』

『あら…私もよ。可愛い蛍ちゃんが、世界で一番大好きで、世界で一番大切よ』

『わたしも! ねぇさんがいちばん!』

『ふふ。じゃあ両想いなのねぇ』






 姉さん
 姉さん

 私の世界で一番大切なひと






 大正のこの世に、二人だけで生きてきた。


 十二、歳の離れた姉。
 それが唯一私に残された家族だった。

 両親は私が幼い頃に病と事故で亡くなったのだそうだ。
 だから両親の顔も声も何一つ知らない。

 憶えているのは、いつも優しい笑顔を浮かべていた姉の顔。




『姉さん、おかえりなさい』

『ごめんね蛍ちゃん、遅くなって。お米を買ってきたから、ご飯にしようね』

『お米!? ご馳走だね、お金はどうしたのっ?』

『ふふ。今日は稼ぎが良かったから』

『そうなんだ…お疲れ様。ご飯は私が作るから、姉さんは休んでて』

『あら、いいの?』

『勿論』

『優しいのねぇ。ありがとう、蛍ちゃん』




 歳の離れた姉は、女手一つで幼い私をここまで育ててくれた。
 優しくておっとり笑顔が多くて、だけど働き者の気立てがよかった姉。
 私にとっては姉であり、母でもあった。

 でも女二人だけで生きていくには、この世は決して優しくなくて。

 お百姓さんの畑仕事の手伝いと内職の機織りの他に、姉だけ別の仕事も掛け持っていた。
 それはいつも夜に行う仕事で、朝方になると帰ってくる。
 幼い頃から見ていた姿だったから、当たり前に受け入れていた。

 それがどんな仕事なのか。
 初めて知ったのは、膨らんだ借金を取り立てに来た男達を見た時だ。

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