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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第17章 初任務《弐》



「人懐っこい子というか。また出てきたのかな」

「なおん」

「今は何も持ってないけど、山を下りたら何か食べられるものもあると思うから」


 金色の目だけを光らせて、闇に同化するように消えていったあの猫だと。
 鳥居と鳥居の隙間に手を差し伸べて笑いかけた。


「ご飯が欲しいなら、一緒に…」


 その先に、蛍の予想していた愛らしい姿はなかった。


「なあああ」


 ぽっかりと開いた真っ黒な穴。
 否、真っ赤な口紅で縁取った唇が、黒い闇を開けて笑っていた。

 その口から、猫なで声が響いていたのだ。
 笑う唇の中にずらりと並ぶ、真っ黒な歯。


「ひ…っ!」


 喉が引き攣る。
 反射で飛び退く蛍に、男が驚き駆け寄った。


「ど、どないしましたっ?」

「く、くち、がっ」

「口?」


 焦点を定めない蛍の指先が、鳥居と鳥居の隙間を指す。
 男の目がその間を覗き込もうとした。

 ずるり、と白い手が這い出る。

 鳥居の朱い柱を掴み、暗闇から這いずるように伸びてくる。
 思わず男も足を止め、その異様な瞬間を凝視した。

 何もなかったはずの鳥居と鳥居の隙間。
 其処から現れたのは、白い着物の女だった。
 赤い口紅で象る唇の中には、真っ黒に塗りたくられた歯が並んでいる。
 その姿を見た瞬間、蛍は理解した。
 これこそ杏寿郎が見たと言った、あの女だと。


「ッ下がって下さい!」

「えっ?」

「例の鬼です!…多分!」


 最初こそ怖気づいたが、男を背に庇うように前に踏み出すと、蛍は真正面から女を睨み付けた。
 お歯黒の口がにぃと深く裂けるようにつり上がる。
 何か言葉を紡ごうとするように動く唇に、それより早く蛍の足が強く地面を叩き込んだ。

 ドン!と踏み抜く足から響く衝撃。
 蛍の背後でよろりとよろけた男が、目を白黒させる。


「 通 り ゃ ん せ 」


 目の前の女はその身を崩すことなく立ったまま。
 紡いだのは、童謡の歌。

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