第17章 初任務《弐》
「よくこんな夜更けに何度も鬼を捜しに来れましたね」
「妻を取り戻したい一心でしたから。恐怖は然程あらしまへんでした」
行きは一人。帰りは二人。
長い鳥居のトンネルを並んで歩く。
落ち着いた状態で話せば、男がどれだけ絶え間ない愛を持っていたのか、すぐにわかった。
「奥さん、とても素敵な方だったんですね」
「ええ…私には勿体ない程に気立てもよう町一番の美しい女性でした」
「そうですか…(やっぱり、美は関係している?)」
顎に手を当てて考えながら、蛍は隣を歩く男の優しい笑みに目を止めた。
掴みかかり鬼だろうと叫んだ男とは、似ても似つかない程に優しい笑顔だ。
「奥さんのこと、本当に愛していたんですね」
「愛して"いる"んです。妻は、私が今まで見てきた誰よりも澄んだ綺麗な瞳をしてました。その目に見つめられると、自分の醜さや汚さが浄化されてくいうか…」
「あ、その感覚はわかるかもしれません」
「貴女にも大切な人が?」
「はい」
その人の傍にいるだけで、その人に触れるだけで、鬼である自分も生きていていいのだと思える。
神さえも信じられなくなった自分の心が、それだけで洗われていくような。
「どないな御方なんですか?」
「…綺麗、ですね。貴方の言うように。向けてくる眼差しや纏う色もそうですけど…心が。その人の中身そのものが、綺麗というか…太陽みたいなんです」
「太陽、ですか」
「陽だまりみたいな、ずっと其処に留まっていたくなるような温かい人。人の心を、思い出させてくれた人」
日陰となる思いも持っているはず。
しかしそんな寂しさを露程にも見せず、彼は笑うのだ。
太陽のように明るく、陽だまりのように優しく。
「私独りじゃ知らなかったところに、辿り着けなかったところに、連れていってくれるんです。その心に触れていると…だから、守ろうって」
「守る?」
「誰もがその心に手は伸ばすけど、手を差し伸べる人は少なくて。いつもあの人は、照らす側だから」
杏寿郎に手を差し伸べる相手など、産屋敷耀哉以外に蛍は知らない。
多くの人が所属する鬼殺隊の中で、もし本当に手を伸べた者が当主である彼一人だけだったとしたなら。
「だから、守っていたい」
そう考えるだけで、胸の奥がぎゅっとなる。