第17章 初任務《弐》
そこまで鬼にとって身近な存在でいながら、何故男は襲われないのか。
「(まさか…美丈夫じゃないから?)…はははまさか」
「? 何か?」
「いえ何も。貴方は悪くありません。その鬼に会ったらとりあえず一発殴っておきますね」
「は、はい?」
握り拳を掲げにっこりと笑う蛍の声は、笑っていない。
「一先ず、此処を下りましょう。麓には私の仲間がいますし。貴方の話を仲間にも詳しく聞かせて下さい」
「そういえば、きさつ、たい…やら、なんとか」
「はい。鬼を滅する為に組する組織のことです」
「貴女もその一員やったんですね」
「一員というか…まぁ」
曖昧に笑いながら、蛍は階段から腰を上げる。
番傘を手にすれば、不思議そうに男は頸を傾げた。
「何故、傘を?」
「目印です。鬼に見つかり易くする為の」
「成程」
「それも必要なくなりましたけど」
月夜に浮かぶ、真っ赤な番傘。
それを閉じると、蛍は当然の如く頸を横に振った。
「貴方を危険な目には合わせられませんから」