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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第17章 初任務《弐》



「平常心、平常心。お化けなんていない。幽霊なんて空想。この世にいるのは人と鬼だけ」


 呪文のように言い聞かせながら、からりころりと下駄は先へと進んでいく。


「ぅ、唄をわーすれた、かーなりやはー」


 恐怖を追い払うように、慣れ親しんだ歌を口ずさんで。



 唄を忘れた かなりやは
 後の山に棄てましょか
 いえいえ それはなりませぬ

 唄を忘れた かなりやは
 背戸の小藪に埋けましょか
 いえいえ それはなりませぬ

 唄を忘れた かなりやは
 柳の鞭でぶちましょか
 いえいえ それはなりませぬ

 唄を忘れた かなりやは
 象牙の船に 銀の櫂
 月夜の海に浮かべれば

 忘れた唄を 思い出す



 子守歌と称して、姉がよく口ずさんでいた歌だった。
 歌の意味を深く考えたことはない。
 ただ何故、金糸雀は唄を忘れてしまったのか。
 幼いながらに疑問に思ったことを口にしたことはあった。

 その時、優しげな笑みを向けて姉が答えたのは問いとは別のこと。





『かなりやは唄を忘れてはいないの。思い出せなかっただけよ』





 だからまた唄うことはできる。
 そう告げた姉の言葉の意味は、よくわからなかった。
 それでも優しい笑顔と口ずさむ歌声が好きで、何度も聴かせてとせがんでいた。

 一人、月房屋で身売りをしていた時も蛍の励みになっていた歌だ。


「月夜ーのうーみーに、浮かべればー…」


 月夜。
 歌と同じ白い月を見上げながら、今もまた気を奮い立たせる為に口ずさむ。
 そうして辿り着いた終着点。


「忘れーた、歌を…思い、出す」


 くるり、と赤い傘を回して。
 いつも見上げた先には、姉がいた。





『唄えないから、価値がなくなる訳じゃないの』

『価値って?』

『…ねえ、蛍ちゃん。私にとって、蛍ちゃんはどんな時でもどんな姿をしていても、大好きな蛍ちゃんよ。そこに変わりはないの』

『私も! どんなねえさんでも大好きだよっ』

『ふふ、そうね。私も、蛍ちゃんがだーい好きよ』





 稲荷山の頂上。
 木々等の隔てのない月はよく見えた。

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