第17章 初任務《弐》
「我らも気を引き締めてかかろう! この先には鬼がゴホッ!」
「…うん…師範はもう喋らなくていいですから。花吐き過ぎて最早道導になってますから。居場所まるわかりですから」
「む、むぅ。面目ない…ゴフッ」
隣で腕組みをし山を見上げる杏寿郎の通った道には、点々と赤い花。
更に酷くなっている花吐き病に蛍は呆れと不安を半分ずつの目を向けると溜息をついた。
月が出ると、更に症状の酷さは増した。
杏寿郎は変わらず笑顔で張った声を出し続けてはいるが、発作のような花吐きが起こると呼吸もままならなくなる。
このままでは、体が衰退する前に窒息死してしまうのではないかと考えられる程だ。
「手筈通りに私が山を登ります。師範は潜伏を。後藤さんは安全な所で待機して下さい」
「勿論、心得てるさ。隠が出しゃばったって足手纏いにしかならないだろうし」
「何かあれば即座に知らせるんだぞ。鬼を深追いはするな。有効な手立ては日輪刀であって、血鬼術同士では」
「怪我は負わせられても決定打にはならない、ですよね。わかってます。だからもう師範は必要な時以外は喋らないで下さいね」
「むく」
ぴしりと蛍の人差し指が、杏寿郎の唇へと押し当てられる。
ようやく唇を結び沈黙を作る杏寿郎に、肩を落とすと蛍は持参していた番傘を開いた。
真っ赤な着物と揃いの真っ赤な傘。
くるりと回したそれを肩にかけて、大きな鳥居の下へと踏み出した。
「それじゃあ行ってきます」
傘に顔が隠れる、一寸手前。
瞬き一つで蛍の表情ががらりと変わる。
闇の中に浮かぶ赫々とした金魚の姿は、それこそが浮世離れした存在のようだ。
改めて蛍も鬼であることを実感しながら、後藤は小さくなるその背中を見送った。
「本当に、鬼が釣れるんスかねぇ…」
「今宵、蛍以外の者はこの場に立ち入らぬようにしてある。故に獲物は蛍しかいない。あの女が霊魂の類などでなけれゲホッ」
「な、なんかすんません」
「……面目ない」