第17章 初任務《弐》
(炎さんなら、蛍ちゃんのことを責任もって預かってくれそうだし。まぁ、安心か)
うんうんと頷きながら、はたと思い出した先程のやり取り。
他言無用と示した杏寿郎に、無暗に漏らしはすまいと後藤も胸に誓う。
何より望むのは蛍の安息だ。
この喜びを誰かに伝えたい気もするが、それで蛍に迷惑をかけるようなことはしたくない。
「(それに…)やっぱ柱は怖ぇわ…」
素直に祝うことのできない蛍の立場も立場で考えると気は重くなるが、何より先程の薄暗い部屋で垣間見た鋭い眼孔。
底冷えするような杏寿郎の双眸を、思い出して再び身震い。
何を考えているのかわからない、圧のある瞳にやはり柱は苦手だと再確認した。
「あ! 隠のあんちゃん!」
トトトと廊下を走ってくる小柄な足音が、後藤の耳に届く。
心配そうな面持ちで後藤を見て走ってくるのは、藤の家の少年の清だった。
「炎柱様はっ? 鬼に引っ張られてったけど…大丈夫やろかっ」
「ああ、オレが様子を見てくるから大丈夫だって言っただろ。だからこれ以上先には行くな」
「なんで? 問題なかったんやろ?」
「それはまぁ…ただその…」
「ただその?」
「師弟、の、大事な話をしてんだよ。そうそう」
「む…っオレはあないな鬼、炎柱様の継子やなんて認めてへんからな!」
「認めたくなくたって現にそう…って行くなマジで! オレが怒られるから!」
「? なんで隠のあんちゃんが怒られるんや」
「怒られんの! 絶対! あんな目二度とかち合いたくねぇからな!」
「はぁ?」
炎柱お墨付きの空気を読める男、後藤。
先へと進もうとする少年の体を全力で止めに入る姿は、気迫立ってさえいたという。
「後藤さん」
「…ん…?」
「任務前からなんか疲れてるみたいだけど…大丈夫?」
「ああいや…オレのことは気にしないでくれ…」
「でも」
「寧ろ触れないで欲しい…」
「?」
闇に染まる稲荷山。
再びその入口へとやって来た杏寿郎と蛍。
新たな隠という顔ぶれを追加して来てみれば、山に登る前から心底疲れた顔をしている後藤に、蛍は一人頸を傾げたのだった。