第17章 初任務《弐》
「あー…その、」
「?」
いつもとはまるで雰囲気が違う、色香を纏うような蛍の笑みに、覆面の下の顔が熱を持つ。
表情がわからないことに半ば感謝しながら、後藤は言い難そうにでも口を開いた。
「蛍ちゃんは"それなり"って言うが…十分、魅力ある女性だとオレは思う、けどな」
「……」
「…なんで無言なんだよ」
「や…後藤さんがお世辞言うの初めて聞いたなって」
「じゃねぇよっ本心だ!」
「あははっごめん、ありがとう」
赤い紅を乗せた唇を開けて、気さくに笑う。
普段とは違う顔を見せつつも、笑う顔は蛍の名残を感じさせていて、後藤もふと口角の力を抜いた。
ぼとっと、廊下に落下音が響いたのはその時だ。
「ん?」
「あ」
「あ!」
「おや」
部屋にいた四人の目が向いたのは、開けた襖の先。
手をかけているその者が襖を開けたのだろう。
ぼとりとその場に落ちているのは、炎のように燃え上がる鮮やかな羽織。
「炎柱様! ぐ、具合っどうですかっ?」
「うちの痛み止めが喉に効けばよろしいですが…」
「そういや蛍ちゃん、炎柱様が花吐き病にかかったって」
「うん、それが一番の問題で…師範。羽織、落ちましたよ」
「……」
「というかその羽織、肩から落ちることあるんですね珍しい…そもそもどんなに動いても落ちない方が凄いけど」
「……」
「師範?」
四人がそれぞれ口を開く中、肝心の杏寿郎からは一切の発言がない。
いつもはこの場の誰よりも猛る声を発する者だというのに、唇を閉めたまま蛍を凝視していた。
その肩から炎柱の象徴でもある羽織を滑り落として。
「羽織。落ちてますって」
ほら、と指差す蛍の姿を、穴が開きそうな程に凝視する。
元々かっ開いた両目を更に見開いて、射貫くような眼差しは知っている女の見知らぬ姿を映し出していた。
「師範…煉獄師範。だから羽織……ね、ねぇ後藤さん。私の声聞こえてないのかな…」
「蛍ちゃんは正常だから気にするな。…多分ありゃ炎柱様が」
「師範が?」
小声で後藤へと問いかける。
すすすとその身を寄せる赤い金魚と化した蛍に、カッと杏寿郎の目が更に見開いた。