第5章 柱《弐》✔
「俺は派手に耳が良いんだ。この山の何処に隠したって、微かな硝子の振動音を聴き分けて風鈴を見つけだせる。だから"音柱"を名乗ってんだよ」
「っ!?」
「だが安心しろ。風鈴は探さないでおいてやる」
トントンと己の耳を指し示しながら、尚も蛍が驚くことを口にした。
何故探さないのか、理由など至極簡単だ。
「考えりゃすぐにわかることだろ。お前は俺の風鈴を奪えない。つまりは俺には絶対に勝てない。俺もお前の風鈴を奪わない。つまりはこの実践は延々と続く」
「……」
「ようやく理解したか」
今回の実践は時間無制限。
勝敗の結果が出なければ、戦いは続く。
「つまりお前はいずれ朝日を浴びて、お陀仏だってことだ」
二ィ、と天元の口角がつり上がる。
「煉獄に助けて貰えるなんて思うなよ。戦いに厳しく義理堅い男だ。俺に全ての指揮を任せたんだから、割り込むことなんてしない」
杏寿郎が手出しをしないとなれば、蜜璃も助けには来られないだろう。
小芭内に至っては心配する必要もない。
彩千代蛍の死も、実践稽古中の不慮の事故となれば鬼殺隊の当主も認めるはず。
(不死川を真似る気はないが、それくらいで死ぬようなタマならこいつもそこまでだってことだ)
息を呑む蛍を無感情に見下ろしたまま、唯一の心残りをそういえば、と思い出した。
毎夜、律儀に炎柱邸に足を運んでいると聞く水柱。
あれは蛍の命を預かっているようだが、不慮の事故で彼女が命を落としたとなればどんな反応を見せるのか。
(ま、あいつは感情欠如人間だしな…そこまで気に掛ける必要もねぇか)
どうせ一月も経てば変わらない日常が戻ってくる。
この鬼がいた数ヶ月が、異様なことだったのだと。
ザッ
「!」
枯れ葉が呻る。
考え事をしていた僅かな間に、天元の目の前に小さな体が迫っていた。
鋭い爪が求めた先は、天元のベルトに括られている風鈴。