第17章 初任務《弐》
「確かに妻の命を奪った花ですが、最期に妻が残した形見でもあるのです…なんか手元に、残しときとうて…」
「でもこの花は、そのうちに消えてしまうと聞きました。ここで渡しても、いずれは…」
「やとしたら、貴女方にも必要あらへんものでしょうっ? ほんの少しの間でもええ、私にその花を譲って下さい…!」
「っで、ですが」
再び男の目が食い入るように見てくる。
しかしその目は赤八汐ではなく、それを持つ蛍を見ていた。
生気の見えない目が、欲を交えた色を成す。
その目に捉えられると、たじろぐことしかできない。
「尚更渡すことはできないな。奥方様のことはお悔やみ申し上げる。しかし貴方は生きている。このようなものに縋らず、前に進むべきだ」
男とは相反し、冷静に告げる杏寿郎の言葉は誰もが尤もだと思えるものだった。
「っ何がわかる言うんや、あんたみたいな青二才に…!」
ただ男の抱えた心の絶望も、蛍は感じ取れた。
妻を亡くしたばかりであれば、彼にはどんな正論も通じない。
その心を癒せるのは、亡き最愛の人だけだ。
「確かに、俺は貴方の心を理解はできない。貴方のことも、奥方のことも知らない」
それは杏寿郎も例外ではなかった。
幼くして最愛の母を失くした、目の前が全て真っ暗な闇に塗り潰されるような世界を見たことがあるからこそ。
「しかしこの花が悪しきものであることは知っている」
その母に歩むべき道を教えて貰った。
だからこそ進めるのだ。
「故に、渡すことはできない」